日本のプロ野球選手の筋力はメジャーの足元にも及ばない

ダルビッシュはトレーニングとしてのランニングを否定しているわけではない。だが、一定レベルの技術を持つプロ選手に対して、監督やコーチが過剰な走り込みや投げ込みを命じるのはおかしい、という考えだ。そして、自身はウエイトトレーニングを中心に「投げるカラダ」を作ってきた。その傾向はMLBのチームに移籍してから顕著となった。

彼の言動の背景には、NPBとMLBの体格差がある。

NPB選手の1960~1980年代の平均身長は180cm、平均体重は80kg。その30年間の中でも、体格はほとんど変わらなかった。それが、1990年代から体重が徐々に増加。2019年のデータでは、平均身長180.8cm、平均体重84.2kgになっている。これはNPBにおいてウエイトトレーニングが少しずつ浸透してきた証拠だといえる。

一方のMLBは、投手は平均身長191.2cm、平均体重95.2kg。野手は平均身長187.1cm、平均体重93.1kgとなっている(2016年のデータ)。NPB選手は以前より体格がよくなってきたが、本場メジャー選手の足元にも及ばないことになる。

阿部2軍監督は現役時代、身長180cm、体重98kgで、2015年からは本格的なウエイトトレーニングをしていたそうだ。つまり、筋トレの重要性は身をもって知っていたはずなのに、なぜ罰走を命じてしまったのか。あるいは、近年、見逃し三振をした打者は選手間の罰則として試合後にPP走を科すような他チームがあるから、その影響を受けたのか。

野茂英雄は鈴木啓示監督の「走り込み」指令に逆らった

NPBの選手間で本格的なウエイトトレーニングが行われるようになったのは、MLBで大活躍した野茂英雄元投手(現在51)の存在が大きいといわれる。現地では個人でパーソナルトレーナーを雇い、走り込みではなく、ウエイトトレーニングを中心にMLBで戦うためのカラダを作っていた。

渡米する前の近鉄時代、野茂が鈴木啓示監督(現在72)の「走り込み」に異議を唱えていたのは有名な話だ。「投手は走るもの」という考えを持っているのは、歴代317勝を挙げた鈴木だけでなく、歴代最多400勝の金田正一(昨秋、86歳で他界)など日本プロ野球界の大御所に多い。だが、野茂は1995年に渡米するまで自分の考えを貫いた。