「完投数」が急減している中、走り込みで持久力をつけても無意味
そもそも運動理論上、ゆっくり長く走り込むことで、下半身がパワーアップすることはない。
同じアスリートでも、100m走者のように爆発的なパワーを必要とするスプリンターと、42.195kmを走り切る持久力が必要なマラソンランナーでは体形が大きく異なる。身長が同じ175cmなら、スプリンターの体重は70kg強、マラソンランナーの体重は60kg弱というのがトップレベルの平均的な数字になる。10kgの体重差は筋肉量が大部分を占めている。
では、野球選手はどうか。実は野球選手は試合中、「動かない時間」が案外長い。打者が投手のボールを打って走る。野手として、相手打者の打球をキャッチする。そうした「激しく動いている時間」は、1試合のうちはトータルで10分にも満たないケースもある。野球選手に求められるのはどちらかというと瞬発的な力を発揮する能力で、スプリンターに近い。つまり、筋肉の量が多いほうが高いパフォーマンスを発揮できる可能性が高い。
しかし、こと投手に関しては、「長距離選手のような持久力こそが重要だ」と信じられた時代があった。NPBの通算完投数は金田正一が最多の365で、鈴木啓示が3位の340。リリーフ投手に頼らず、1回から9回まで投げ切る「先発完投」を美学にしていた彼らが「走り込み」を重要視していたのは納得できる面もある。
ただし、この「完投数」は1990年代に入ると下降している。監督の采配として、投手陣の分業制が確立されたこともあり、近年の先発投手は5~6回で途中降板して、あとの回は複数のセットアッパーやクローザーに託すケースが多い。
筋肉マッチョ化した大谷翔平を見て、張本勲氏が「喝」
求められるパフォーマンスが変わってきたことを考えると、トレーニング内容も変えなければならない。ランニング理論では、ゆっくり長く走るような走り込みでは筋肉は強く大きくならない。筋肉を効率よく肥大化させ、瞬発力の出力を上げるという意味ではウエイトトレーニングのほうが有効だろう。よって、阿部2軍監督が選手に科した罰走は何ら効果のないものになっていないことになる。
また球場のマウンド形状も変わっている。昨今、日本の野球場の投手マウンドはメジャー化しつつある。巨人の本拠地である東京ドームは昨季からメジャー仕様の硬質なタイプに変更した。他球場も同様の動きが見られている。
日本の投手は、これまで投球の際に、前足(右投手なら左足)に体重を乗せ、重心を低く落とし、下半身で粘って投げるのが理想とされてきた。金田正一や鈴木啓示ら重鎮が提唱してきたスタイルだ。一方、MLBのマウンドは日本と比べ、硬質の土が使用されており、投手は上半身のパワーを生かして投げるスタイルが主流になっている。
情報番組「サンデーモーニング」(TBS系)で、今年3月、スプリングトレーニングに現れたロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手(25)がノースリーブのシャツを着て、筋トレによって見事に肥大化した両肩・両腕を披露した映像を見た番組コメンテーター・張本勲氏(79)が「プロレスじゃないんだからね。野球に必要な体だけでいいんですよ」と、恒例の「喝」を言い放った。
球界のご意見番たる張本氏の主張は、「ケガしますよ。体の大きい人はね、膝に負担がかかるから。まして人工芝ですから。ケガが非常に多くなる。(ウエイトトレーニングを)やってもそれ以上に走ればいいですよ。逆だもん。上半身ばっかり鍛えてもダメですよ」というものだった。