なぜ、外国医大卒のニセ医者が定期的に現れ、騙されるのか
いわゆる「ニセ医者」を騙る人物は過去にたくさん登場した。
ニセ医師は「出会い系サイト」や「健康診断アルバイト」や「結婚詐欺」といったステージでいつも暗躍している。近年では厚生労働省のホームページで名前を打ち込むと「資格検索」できるので医師を名乗り続けることは困難である。
しかし、この資格検索システムは日本の医師免許が対象で「外国の医師免許」は検索できず、今なお外国医大卒を名乗るニセ医者は後を絶たない。以下に、これまでの典型事例を紹介し、読者のみなさんに注意を促したい(カッコ内は、騒動が起きた年)。
ケース1:米田きよし氏、自称「カナダの小児救命救急医」(2011年)
外国人医師を名乗った詐欺事件でもっとも有名なのは、2011年の東日本大震災直後に現れた「米田きよし」氏である。「カナダの小児救命救急医、国境なき医師団メンバー」として、宮城県石巻市の避難所で250人以上を診察していた、と伝えられた。美談の医師である。
実際に診察をしており、その“評判”を聞きつけたテレビの情報番組「スッキリ」「ミヤネ屋」(日テレ系)が出演させ、同年8月10日にはなんと、あの格式高い朝日新聞「ひと」欄で「被災地で『ボランティアの専属医』を務める米田きよしさん」として紹介された。
だが、8月19日「医師法違反(医師名称使用)の疑い」で逮捕された。その後、朝日新聞は記事を撤回し、米田氏は「詐欺罪で実刑判決」の経歴があり、東日本大震災に関しても「助成金100万円」を受け取っていたことが報道された。
ケース2:森口尚史氏、自称「ハーバード大客員講師」(2012年)
2012年10月、iPS細胞研究で知られる山中伸弥教授のノーベル受賞で日本中がお祝いムードだった頃、「ハーバード大学客員講師」を名乗る森口尚史氏が「iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術を実施」と発表し、読売新聞が一面トップで大々的に報じた。直後より、多方面からの疑義を受けて、その2日後に同新聞が記事を撤回した。
森口氏は医学部を志望して6年間浪人した後、東京医科歯科大医学部保健衛生学科(看護学専攻)に進学した。その後、医科歯科大修士課程から東大博士課程に進学し、博士号取得の後は東京大学医学部附属病院で特任研究員の職にあったが、この騒動で懲戒解雇された。
森口氏にとって、この虚偽発表による経済的メリットは考えにくく、医学研究者としてのキャリアは事実上断絶してしまった。動機については不明だが、自分で考えだした空想を信じ込んでしまう「空想虚言症」を指摘する意見もある。
ケース3:齋藤ウィリアム浩幸氏、自称「カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)卒医師、サイバーセキュリティ専門家」(2017年)
2010年代はじめ、齋藤氏は「日系2世としてカリフォルニア州に生まれ、UCLA医学部在学中にIT起業し、事業を米マイクロソフト社に売却」というプロフィールで紹介された。2013年に内閣府参与に就任し、驚くべきことに16年には紺綬褒章を受章した。日本航空の社外執行役員など有名企業の要職を歴任し、世界経済フォーラムや、BBCニュースなどでも活躍していた。
ところが、2017年に、「UCLA卒業者やカリフォルニア州医師リストに名前がない」などの経歴詐称疑惑が指摘され、内閣府参与や日本航空を辞職した。
ケース4:内藤理恵氏、自称「シンガポール医大卒の外科医、読者モデル」(2019年)
この人は「シンガポール国立医大卒、アメリカの大学に留学し、現在は東大医科学研究所病院の外科医」と公表されていた。2015年頃から、女性ファッション誌「25ans(ヴァンサンカン)」読者モデルとして活躍し、いわゆる「港区セレブ女子」として芸能人や実業家が出席する多数のパーティーに参加していた。IT系の資産家男性と婚約・同棲し、SNSで「マラソン大会にボランティア医師として参加」などと発信していた。
だが、2019年8月に「携行する医師免許が偽造」だとして警視庁に被害届が出され、婚約も解消された、と報道された。