クラシック音楽界にも似たような状況があった

こういった状況はビジネス界に限らず、ほかの世界でも見受けられます。感性が大きな要素を占める芸術の分野においては顕著でしょう。クラシック音楽界でも多くのディスラプションが起きました。

斬新な作曲技法で20世紀音楽への扉を開いたクロード・ドビュッシーは、そのいい例と言えます。彼は「耳に心地よい音楽」のビジョンを持っていました。ベートーベンやワーグナーに代表されるドイツの重厚な交響曲が主流であったところに、従来の禁則を破ってさまざまな音楽様式を融合し、まったく新しいリズムの音楽を創り上げました。大きな影響を残したドビュッシーですが、一時期はその功績も虚しくさまざまな心ない批判にさらされ、隠遁生活を余儀なくされたのです。

音楽界の最前線で戦ったドビュッシーは、西洋音楽からジャズ、ミニマルミュージックやポップス、プログレッシブ・ロックまで幅広く多様な音楽に影響を与えました。イーゴリ・ストラヴィンスキー、ジョージ・ガーシュイン、スティーブ・ライヒから、デューク・エリントン、マイルス・デイヴィス、ハービー・ハンコック、そしてピンク・フロイド、イエス、エマーソン・レイク・アンド・パーマーにも影響を与えています。

BABYMETALによる強烈なディスラプション

音楽界でのイノベーションを見ると、欧米での展開が目立ち、残念ながら日本発のものはなかなかありません。しかし、近年イノベーションとオブセッションの関係性を色濃く反映する、興味深い現象が注目されます。BABYMETALとそれをとりまくコミュニティです。そのインパクトは大きく、これまで日本人には見られなかった世界標準の強烈なディスラプションを起こしているのです。

BABYMETALは、2010年に「アイドルとメタルの融合」をコンセプトに日本人の3人の10代の女性で構成されるヘヴィメタルのダンスユニットとして結成されました。バックバンドに「神バンド」が加わり、2014年にヨーロッパ・北アメリカ・日本を巡るワールドツアーを開始しています。

ヘヴィメタルは、ギターの歪んだ音やドラムのテンポの速さが強調された演奏や、反社会的なものを含めた暗い攻撃的なテーマと歌詞の楽曲で、特有のファンを獲得してきました。その重々しい暗鬱な世界に、女性たちの清々しい突き抜けた歌唱と流麗ながら渾身のエネルギーをこめたダンスで、進むべき光に満ちた未来を指し示すのです。破壊的イノベーションです。