万人が使いこなすために必要なもの

まだ言葉も話せない2歳の子供にiPadを渡せば、自らYouTubeを立ち上げ、自分の見たい動画を探して再生します。お絵描きがしたくなったらアプリを立ち上げ、筆や色を自分で変えながら創作を楽しむことができます。そして、それはアップル製品の強みである「直感的なユーザインタフェイス」が、他製品とは比べものにならないほど洗練され、こだわり抜かれているからこそ実現するのです。

そもそもアップルは、創業時からハードウェアとOSの両方を自社で開発している非常に稀有な企業です。その両立は決して容易ではありませんが、万人が使いこなすことができる「知的自転車」を実現するためには、ハードとソフトの両方が高い次元にある必要があるのです。

オブセッションは支持者と敵を生み出す

アップル製品の優位性はハードウェアとソフトウェアが一体となって提供されるユーザエクスペリエンスにあり、そのエクスペリエンスのデザインに対する徹底したこだわりが随所に見られます。ところが、こだわりを越えてオブセッションが人を駆り立てる状況になると、いろいろとやっかいなことが出てきます。オブセッションは熱狂的な支持者を作る一方、あちこちに混乱と軋轢を生じ、ひいては多くの「敵(ヘイター)」も生み出すからです。

たとえば、MacOSが9になる前のバージョンでは、ゴミ箱にファイルを捨てるとゴミ箱のアイコンがぽっこり膨らむようになっていました。そういった機能的には意味のない「遊び」がOSに組み込まれると、「Macintoshは無駄の多いおもちゃだ」と拒否反応を示すビジネスユーザが増えました。

性能面でも、(コンピューティングリソースをGUIそのものに使うために)Macintosh はウィンドウズマシンより処理が遅いというベンチマークテストの結果が、メディアやユーザの間でも喧伝されるようになりました。その結果、アップルとアップルユーザに対してあからさまな嫌悪を示し、敵視する人たちが少なくありませんでした。