アップルの初期の広告には、荷台にMacをくくりつけた自転車のイラストが使われていた。これには創業者スティーブ・ジョブズの思想が反映されている。アップルジャパンでマーケティングコミュニケーションを担った河南順一氏は、「スティーブにとってテクノロジーは、人の創造性や能力を引き出すツールであり、まさに自転車のようなものだった。それは今でもアップルに息づいているDNAになっている」と説く――。

※本稿は、河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/pixdeluxe
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自転車の荷台にMacをくくりつけた初期の広告

創業時のアップルのビジョンは次の一文になります。

「Changing the world, one person at a time.(世界を変える、1人ずつ)」

アップルが創造する製品で人の能力を拡大し、それが周りに伝播して、世界が変わっていくのです。巨大な一瞬の衝撃波によってすべてを破壊し、世の中が一気に様変わりするというものではありません。

もう1つ、この理念をわかりやすく表現したのが「Wheels for the mind(知的自転車)」です。知的自転車はMacintoshの初期の広告やカタログのイラストに登場し、荷台にMacintoshをくくりつけて疾走する姿に描かれています。

自転車は人がペダルを漕ぐことで人間の力を増幅し、目的地に早く快適に移動することを可能にします。スティーブ・ジョブズにとってテクノロジーは、まさにこの自転車のようなものでした。テクノロジーは人間にとって代わるものではなく、人の創造性や能力を引き出し、増幅し、作りたいものや成し遂げたいことをより早く快適に実現するためのツールなのです。

そしてこの考え方こそがアップルのDNAであり、それは時価総額が1兆ドルを超えるような企業となっても変わっていません。