「仕事は原則在宅で」「出勤者を最低7割減らす」。こうした政府の要請でテレワークに切り替えた職場や家庭で摩擦が起きている。ジャーナリストの溝上憲文氏は「『ウイルスを持ち込まないで』と思っている家族に、『ハンコを押すために出社しなくてはいけない』といっても説得力はない。トラブルはさらに増えるだろう」という――。
「テレワークではできない」仕事とはいったい何なのか?
安倍晋三首相が新型コロナウイルス感染拡大防止のため、4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言を発出した後、11日に全企業に要請した在宅勤務が波紋を広げている。
具体的には、①オフィスでの仕事は原則在宅で行う、②どうしても出勤が必要な場合でも出勤者を最低7割は減らす――ことを求めるものだ。
大企業ではスムーズに在宅勤務に切り替えているところも多いが、それでも全社員を在宅勤務にすることはほぼ不可能に近い。
東京商工会議所が実施した調査(3月13日~31日)によると、テレワークを「実施している」のは、従業員300人以上の企業は57.1%と過半数に達している。
だが、中小企業を含めた全体の数字を見ると26.0%にとどまっている。また、「実施検討中」は19.5%、「実施予定なし」が54.4%。つまり、「実施中」に「実施検討中」を足しても半分にとどかない。
もしテレワークを実施しても、政府要請の出勤者7割減を達成するのは至難の業だ。それでも政府の要請に従うために極力出勤者を減らそうと努力している企業もある。
営業やクリエイティブ、給与計算、期末決算・支払い対応……
都内の広告業の人事部長は現状についてこう語る。
「営業やクリエイティブ部門は個人の裁量で仕事ができる業務が多いので在宅も可能です。しかし、制作部門は現場が会社ではなく、顧客や関連会社と一緒にやる現場業務が多いので、中止にならないかぎり在宅勤務は難しい。事務部門も似た状況にあります。たとえば人事部門は給与計算業務、経理部門は期末の決算対応や各種支払い対応もあり、在宅ではどうしてもできない仕事もあります。もちろん、部門の全員が在宅勤務をできないわけではなく、個人ごとに担当業務の内容が異なるので、うまくやり繰りができれば、出勤率を20%程度に抑えられるだろうと思っています」