医療関係者や遠距離通勤者などを社内で「村八分」にするというハラスメントが相次いでいる。問題が続出していることから「コロナハラスメント(コロハラ)」とも呼ばれる。ジャーナリストの溝上憲文氏は「6月1日から罰則付きのパワハラ防止法が施行されます。コロナ感染不安を背景にした人権・人格を傷つける差別的行為も対象となります」という――。
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コロナ禍で横行する「コロハラ」という差別的行為

新型コロナウイルスの感染不安が広がるなかで、人権や人格を傷つける差別的行為が横行している。

徳島県では県外ナンバーの車に暴言を吐く、石を投げつけるなどの嫌がらせも報告されている。こうした特定地域の出身者に対してあたかも感染者のような扱いをする差別的言動は東日本大震災時に福島県の避難民にも浴びせられたが、今回は全国規模で発生している。

一般道徳を逸脱した精神的嫌がらせをモラル・ハラスメントと呼ぶが、今ではコロナハラスメント(コロハラ)と呼ばれ、その被害者も続出している。しかもコロハラは職場にも及んでいる。

※連合(日本労働組合総連合会)は調査の中でコロナハラスメントと区分けし、事例を紹介している

患者と職員計35人の院内感染が発生した神戸市立医療センター中央市民病院の木原康樹院長は5月9日、妊娠した看護師が医療機関での診療を拒否されたり、コロハラによるメンタル不調に陥ったりする職員の存在を明らかにした。

被害は家族にまで及んでいる。同病院に勤務する看護師の夫が勤務先の会社から「奥さんが看護師を続ける限り、あなたは出勤できない。会社を辞めるか、奥さんが辞めるか」と迫られたケースもあった。

本来なら会社は風評被害から従業員を守るべき立場にある。にもかかわらず単なるハラスメントの域を超え、法律さえ無視した解雇を迫るという暴挙は決して許されるべきではない。

「バイ菌をまきちらすのだから、会社に来るな」

じつはこうした暴挙は他のいろんな職場でも発生している。労働組合の中央組織の連合が実施した労働相談(3月30日~31日)ではこんな事例があった。

<保育所で皿洗いをメインにパートで働き、夕方からは病院で受付のパートをしている。コロナウイルスの関係で、保育所の所長から「病院で働いているなら、バイ菌をまきちらすのだから、来るな」と言われた>(パートタイマー・女性)

まるで本人がバイ菌扱いである。似たような事例もある。大阪市から奈良市の製造会社に通勤している女性(73歳)を同僚が食事に誘ったところ、上司から大声で「誘っちゃダメ」と止められた話を共同通信が報じている。

「(女性は)『新型コロナのせいとしか思えない。大阪から通勤しているからだろう』と打ち明ける。職場では大きなテーブルを囲んで和やかに食事するのが日常だったが、上司は別の同僚にも女性と離れるように指示していた。結局、女性は職場での昼食をやめざるを得なくなり、『傷ついた』と話す」(4月21日)

感染の証拠もなしに、単に病院勤務だとか大阪出身というだけで解雇や職場の人間関係を切り離す“村八分”状態にするのは常軌を逸した異常な行動としか思えない。