ハンコを押すためだけに出社するケースも多い

最大の問題は「業務に使う資料や伝票類、申請書、企画書がペーパーレス化されておらず、会社に紙で保管されていること」(同人事部長)という。

特に経理・財務部門は2020年3月期の決算業務の真っ最中だ。日本CFO協会が実施した会員企業調査(3月18日~4月3日)によると、テレワークを実施・推奨している企業は約70%もあるが、そのうち出社した経理・財務担当者は41%にのぼった。

出社の理由として「紙の書類の処理(請求書・証憑書類・押印手続き)」「会議への参加」「銀行対応」などを挙げている。わかりやすい話、ハンコを押すためだけに出社するケースも多いわけだ。

デスクでドキュメントの承認のスタンプを押す人の手のクローズアップ
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在宅勤務に切り替えても業務上、出社せざるをえない部署はどの会社にも存在する。

都内システム開発企業のCSR部長もこう話す。

「最低限出社する社員を絞り込んで対応しています。事業活動や会社機能維持のために部門ごとに必要な業務と要員の確認をし、協力会社の社員を含む対応する社員候補をリストアップしています。部署によって出社する社員が多いと密閉・密集・密接の3密状態になり、感染する恐れもあるので出社日を輪番制にするなどの配慮も行っている」

「総理大臣が出社自粛を要請しているのに、なぜ出社するの?」

ただ、新型コロナウイルスの感染拡大によって社員の不安も高まっている。好き好んで電車に乗って都心のオフィスまで出社したいと思う社員は少ないだろうが、業務とあればしかたがない。しかし、社員の出社を阻む家族も出ているという。

前出CSR部長は言う。

「どうしても出社しなくてはいけない経理部の社員が妻に止められたという事例があります。妻は言ったそうです。『総理大臣が出社自粛を要請しているのに、なぜあなただけ出社しないといけないの』『ウイルスを家に持ち込んだら子どもや私にも感染するかもしれないのよ、それでも行くの』と。家族の制止を振り切って会社に出てくる社員は、会社と家族の板挟み状態になっている。そんな部下の姿を見ても、上司は安易に『休め』とも言えないので困っているようです」

出社に関してたとえ社員の理解と協力を得ても家族から反対されれば、会社も強く出社を求められない。そんな問題は今後も増えているに違いない。