最初は元気に「報・連・相」してきた社員が何も連絡しなくなった
一方、感染拡大と長引く在宅勤務の中でさまざまな問題も発生している。特にストレスなど健康面の悪化だ。
前出の広告業の会社では海外現地法人からの一時帰国組や都市部の単身赴任者など、2月以降に在宅勤務を続けている社員が出てきているという。
「一時帰国組や単身赴任者の中にはホテル住まいやワンルームで2カ月以上在宅勤務を続けている社員もいます。1カ月ほど経過した時点で、上司から仕事はそれなりに真面目にやっているようだが、最初の頃は元気に『報・連・相』をしてきたのだが、しばらくしてまったく何も連絡してこない日もあり、電話をしても元気がないという相談を受けました。相当ストレスがたまっていることがわかり、放置しておくと精神面の不調に発展する恐れもあるし、対策を打つことにしました」(人事部長)
現在、会社ではストレス対策として、1時間ごとの部屋の換気と10分の休憩、2時間おきの軽いストレッチの推奨をしている。そのほかに業務開始時・昼食時・業務終了時にメールによる会話や電話連絡を上司に義務づけているという。
在宅勤務中の仕事の成果も大事だが、長期化することで社員の心身の不調を警戒しなければいけない事態にもなっている。
コロナによる医療崩壊は深刻だが、家庭崩壊も深刻だ
在宅勤務中のストレスの発生は本人にとどまらない。同居する家族も含めて深刻な影響を与えている。都内のIT企業の人事部長はこんな話をしてくれた。
「当社にも1カ月以上在宅勤務を続けている社員がかなりいます。ある40代の社員は、妻と高校生と中学生の2人の息子がいますが、妻のパート先が休業になり、しかも学校休校で子どもも家にいる。中学生の息子は反抗期で親とも会話をせず、母親に悪態をついては部屋に閉じこもり、高校生の息子は友達と夜も出歩いているそうです。子どもにあまり注意を払わないで部屋で黙々と仕事をしている夫に妻がいらだち、時折、大げんかになることもある。そのたびに夫がパソコンと資料を持って近くのカフェに出かけようとすると、背中越しに罵声を浴びせられるそうです。こんな家庭は珍しくない光景なのかもしれません」
ストレスがたまるのは在宅勤務の社員だけではない。妻や子どもも一緒だ。こんな環境下で、会社と同じように仕事ができるとは思えない。
本来のテレワークとは、通信環境などICT機器が整備された環境で始業・休憩・終業の適正な時間管理の下で効率よく仕事をすることが求められる。
しかし今は脆弱な通信環境に加えて、強制的な“にわか在宅勤務”を強いられている。しかも家族全員が家に閉じこもる中で仕事をしなければいけない人も多い。