安倍に置き去りにされた、全国民

史上最長となった安倍政権は、「3本の矢」に代表される景気浮揚策や強硬な外交・安全保障政策などによって保守層を中心に「安倍信者」を生み、高い支持率を維持してきた。だが、コロナ危機到来後の言動には「信者」の失望感も強く、もはや「大宰相」の姿はそこにはない。ウイルス拡大の震源地となった中国や感染急拡大が見られた韓国からの入国制限は3月5日まで遅れ、欧米並みの強いリーダーシップを国民が求めていたタイミングで首相が発信したのは「1世帯に布マスク2枚の配布」。緊急経済対策に盛り込まれた「1世帯あたり30万円給付」「中小企業200万円、個人事業主100万円を支給」も要件が厳格すぎると批判され、ほとんどの国民は置き去りになる「温度感」の違いが現表れている。

産経新聞社とFNNが4月11、12両日に実施した世論調査では、新型コロナをめぐる政府の対応を「評価しない」が一気に25.1ポイント増えて64.0%に上った。全国紙政治部記者が解説する。「首相は人と人との接触を『極力8割』抑制すると呼び掛け、接客を伴う飲食店への出入り自粛を強く要請したが、休業に伴う補償はしないと繰り返している。しかし、出歩く人が少なくなれば飲食店の客も売り上げも減るわけで、閉店するかどうかの判断を店側に丸投げするのは無責任だ」。共同通信社による世論調査(4月10-13日)では国が損失補償すべきとの回答は8割を超えた。

株を上げた、小池都知事と吉村府知事

コロナ危機で安倍政権の脆弱性が露呈した一方で、国民が求めている強いリーダー像と重なっているのが小池都知事と吉村府知事だ。

「都民の命にかかわる問題であり、医療現場は逼迫している。待つことはできない」「危機管理の要諦は最初に大きく構えて、状況が良くなれば緩和していく。様子を見てから広げていくべきではない」(小池氏)

「府民の命を守るために、ガッとみんなで自粛して抑え込むのが重要だ」「新型コロナウイルス対策特別措置法自体が欠陥だらけで、国会議員はちゃんと仕事しろよと思っている」(吉村氏)

2人の知事が発信するメッセージは明快で、国が1カ月間の緊急事態宣言の期間(5月6日まで)のうち、半分の2週間をつかって「外出自粛の効果を見極める」とした点や、特措法に基づく知事の権限が不明瞭な点に疑問を投げかけ、「命ファースト」でスピード感のある対策を講じるべきと訴え続けた。

東京都と大阪府は、まだ国民のコロナウイルスへの危機感があまりなかった1月24日にいち早く対策本部を設置し、海外からの帰国者対応や感染拡大防止策などの検討を重ねてきた。人口が多く、公共交通機関が張り巡らされ、近隣自治体から通勤・通学者らが集まる大都市のため感染者数は多いが、「海外のように医療崩壊させることなく、時に国を牽引するリーダーに共感する人々は多い」(自民党中堅議員)。