アメリカの新型コロナウイルス感染による死者数は世界最多だ。その多くを占めるニューヨーク市では医療崩壊の危機に直面している。NY在住ジャーナリストのシェリーめぐみ氏が、市内病院の集中治療室で働く看護師の訴えをリポートする――。
毎日夜7時に住宅街から拍手が沸き起こる
シャットダウンで自宅避難が続くニューヨーク・マンハッタンの街は昼も夜も閑散としている。
でも毎晩7時になると、立ち並ぶアパートの窓という窓が開き、突然拍手が沸き起こる。ラッパのようなものを吹き鳴らす人、通りかかる車からもクラクションが聞こえる。
この光景は一体なにか。感染者の治療にあたる医療関係者への拍手喝采が2分間、毎晩行われているのだ。毎日多くのニューヨーカーが新型肺炎で亡くなる中、医療崩壊寸前の病院で働く医師や看護師が、命の危険を冒して働く姿は多くの人の心を打った。不安で不便な自宅避難生活も彼らのためになるのなら、と耐えている人は少なくない。
でもこの街で働く看護師、キヨコ・キムはまだその拍手を聞いたことがない。朝7時から夜7時までのシフトが終わっても、すぐに病院を後にできることはまずないからだ。
高級住宅地のアッパー・イースト・サイドにあるマウントサイナイ・ウェスト病院脳外科の集中治療室(ICU)で働くキヨコは、ニューヨークでの看護歴14年、アメリカ人と並んでも見劣りしない長身、忙しいICUできびきびと動きながら、日本語アクセントが残る英語で指示を出し、休憩時には同僚と大きな笑顔でジョークを飛ばす、病棟内の人気者だ。
脳外科だから転倒して頭から血を流している人も運び込まれる、患者が亡くなることももちろんある。しかし、これほどの状況になるとは全く想像もしていなかったという。