「今は泣かないようにするのがやっとです」

彼は皆に愛された看護師だった。亡くなったことだけでも衝撃だったのに、マスクやガウンなどの身を守る用具が足りなかったから感染してしまったのだと誰もが考えたのは無理もない。

多くの医療関係者が犠牲になっている

その後、ゴミ袋をまとった病院スタッフの写真がソーシャルメディアで話題となり、ニューヨークで初めて看護師の犠牲者が出たこともあって地元メディアの1面に取り上げられた。翌日、会見に臨んだクオモ・ニューヨーク州知事は、記者から「医療用具は本当に足りているのか」と突っ込まれている。

自治体から届いた医療物資
 
企業や団体から届いた医療物資の一部(写真提供=キヨコ・キム看護師)

知事は「用具は十分あるから大丈夫」と答え、その翌日には病棟に十分な数のマスクとガウンが届いた。一方、病院側は、今後はもっと現場の声に耳を傾け迅速に動くと約束したという。

この一件で、ニューヨーク市内の各病院が同様に悲惨な状況であることが白日の下にさらされることになった。物資や人工呼吸器の不足が叫ばれ、ビリオネア(億万長者)が専用機を飛ばして中国までマスクを買いに行き、寄付するなどの動きも生まれている。

しかし、深刻な物資不足は全米の病院で今も続いており、多くの医療関係者が感染症の犠牲になっている。オハイオ州やアイオワ州からは感染者の20%が医療関係者であるという数字が届いているほどだ。

あまりに孤独なコロナ感染患者の死

キヨコの病院でのマスクやガウン不足は改善されたが、今も12時間のシフトで、食事もろくにとれない状態が続いている。

「今日も患者さんが1人亡くなりました。必死にCPRをしても、どんなに頑張っても亡くなってしまう。そういう時は本当に悲しいです」
「その41歳男性の患者さんは発症から数日で亡くなってしまい、家族ともまだ連絡が取れていない。家族は彼が病院に来たことも知らないのです」

コロナ患者の死は孤独だ。病棟での付き添いは一切禁じられていて、死期が迫っているのが分かる時は家族が一人だけ呼ばれ、呼吸器を外して静かに死を待つ。わずかな時間だがそれでもいい方だ。ICUでは人工呼吸器をつけたまま突然亡くなってしまう患者も少なくないという。

「でも」と彼女は言う。

「患者さんは1人じゃないんですよ。家族はいなくても、私たちがいますから」

患者を支え一緒に死に向き合う日々。ところが、そんな彼女に予想もしなかった悲劇が訪れた。