短い面会時間の中で、筆者は最後に「将来、自分の環境を変える気はないのか?」と問いかけた。するとBはこう言い切った。

「それはない。いまさらできることなんて限られているし、何かに縛られて生きていくくらいなら今の生き方を選ぶ」

画一的なプログラムでは根本治療に結びつかない

Bのように、依存症から抜け出せず、本人にも抜け出す気がない場合には、どうすればいいのか。筆者はBを責める気にはなれない。というのも、Bが今後服役し、刑務所から出てくる頃には40代後半になっている。そこから新たな環境を自分ひとりの力で作り上げていくことを諦めてしまうのは理解できる。

現在、刑務所で行っている特別改善指導の中に「薬物依存離脱指導」というプログラムがある。具体的には、テキスト、VTR、グループワークなどで「なぜ薬に手を出してしまったのか」について自らを省みる内容となっている。しかし、受刑者が薬物に手を出す背景はさまざまかつ複雑で、画一的な内容では根本治療に結びつかないという指摘もある。

これは女性の薬物使用者に限った話ではあるが、札幌刑務支所(札幌市)が民間団体の力を借り、薬物使用の罪で服役する女性受刑者のための回復支援策を導入し、新たな更生プログラムを開発する方針を決めている。

毎日新聞の2月13日付の記事「脱薬物へ女性受刑者支援 男性より回復難、出所後につなげ 札幌刑務支所で検証」によると、女性の薬物使用者の特性として、幼少期からの虐待やDVを経験した割合が男性に比べ少なくないことから、心を落ち着かせる行いや出所後へのフォローも手厚くするとのことだ。刑務所における薬物犯罪者への処遇については、平井秀幸の『刑務所処遇の社会学』(世織書房)に詳しい。

筆者が取材している範囲だと、男性も幼少期にネグレクトを受けた経験があったり、家に親がいなかったりなど、複雑な環境で過ごしている場合がある。女性受刑者のみならず、彼らが出所後に開き直って薬物を繰り返すことのないよう、新たな枠組みのサポートが必要ではないだろうか。

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