配偶者保護の姿勢がより一層強まった

さらに、19年7月以降の相続では、この流れを受け「婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与」については原則贈与分は遺産の先払いと見なさず、後の遺産分割で多くもらった分を調整する必要が事実上なくなりました。つまり、配偶者保護の姿勢がより一層強まったのです。

たとえば、改正前であれば、配偶者が生前贈与した場合、先妻の子どもが相続財産に含めるよう請求してしまえば“争族”に発展しかねなかったのです。改正後は贈与した自宅は遺産分割の対象外にすることができるようになりました。

とはいえ、税務上の問題はまだ残っており、よほどの大金持ちならともかく、遺産総額3億円程度までの方については、相続税における「配偶者の(1億6000万円までの)税額軽減」や「(最大8割引きの)小規模宅地等の評価減」といった優遇税制をよく検討したうえで実行する必要がありますので、弁護士だけでなく税理士との事前相談は必須でしょう。

5.15年前にもらった親の不動産これも遺産分割?

Q 私は3人兄弟の長男です。15年前に父親が所有していたアパート(私ども一族で経営している店の従業員の寮として主に活用しているものです)を生前贈与で私名義に変更し、近年は私が店の経営のみならずアパートの管理もほとんど担っていました。父はそのことも踏まえ、私に有利な遺言書を残し、10日前に他界しました。弟たちがこのアパートも遺産に含める、つまり相続財産に持ち戻したうえで遺産分割協議を実施するよう求めていますが、どう対処したらよいでしょうか。

A 10年以上前の特別受益は事実上“時効”扱いに。

相続争いする可能性

現在も含め家庭裁判所の遺産分割手続きで揉める最大の論点は「寄与分(親を自宅で介護して親の財産の減少を防いだ場合など)」と「特別受益(相続財産に相続人のうち1人だけ住宅資金や、開業資金をもらった場合など)」です。

19年7月の改正法施行前は、地方裁判所での遺留分減殺請求訴訟や家庭裁判所での遺産分割審判手続きなどで、特別受益に関して相続人が主張を制限する規定が事実上存在しませんでした。そのため、兄弟間で教育格差(1人だけ親のお金で大学に行かせてもらえた、といった事情)が何十年も昔にあった話などが、それぞれの手続きで延々と主張されていました。しかし、法改正後少なくとも遺留分については相続開始前の原則10年間の特別受益に絞り審理されることが明確になりました。

(構成=プレジデント編集部 写真=PIXTA)
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