「キリンといえば? 一番搾り」。「サントリーといえば? モルツ」。よほどの酒好き、とまでいかなくとも、連想できる人は多いだろう。
そのキリンホールディングスとサントリーホールディングスが、経営統合に向けて交渉を進めている。2008年12月期には、両社ともに過去最高の連結最終利益をあげているが、海外進出のために経営基盤を強化する考えで、早ければ年内にも基本合意したい意向だ。
国内1位、2位の両社が統合すれば、世界最大級の飲料メーカーが誕生する。国内シェアでは、ビール類は5割超、ワインで4割弱、清涼飲料では3割超となり、アサヒビールやサッポロホールディングスなどの競合他社を圧倒的に引き離す。
そこで両社では、公正取引委員会に対して統合に関する事前審査を申請した。焦点になるのは、ビールやワイン、清涼飲料などの国内シェアが独占禁止法の企業結合規制に抵触するかどうかである。
舌の肥えている人なら「キリンとサントリーでは味が違う」とおっしゃるかもしれないが、共通する材料、技術、製法もあるはず。たとえば製法などを共有すると、1つの工場で両社の製品を効率よく生産することもできるだろう。財務など間接部門の整理縮小も可能だ。
コストが下がれば、価格を下げられる。しかし、競合がいない場合はどうだろうか。キリン、サントリーの統合に限ったことではないが、特定の企業が市場を独占する状況下では、コストが下がった分、利益幅を大きくし、価格には反映させないことも起こりうる。
市場には、プライステーカー(価格受容者=消費者)とプライスメーカー(価格設定者・価格支配者=供給者)が存在する。プライスメーカーが消費者の動向を見ながら価格を決定するのが健全な市場だ。さらにいえば、複数のプライスメーカーが競争することによって価格が下がり、買える量が増える、というのが消費者の利益である。