もう1つの疑問「らしくない」安倍政権への協力要請
もう1つの疑問は、なぜ野党の協力を求めるのか、という問題だ。安倍政権は7年を超える長期政権になり、数の上でも衆参で多数を誇る。特に野党の協力を求める必要はない。
実際、与野党が対立する法案がある時、安倍政権は野党側の主張に耳を傾けて歩み寄ったり、熟議を尽くしたりする努力を怠ってきた。特定秘密保護法、安保法制など多くの法案は、野党側から「強行採決」との批判を受けながら不正常な形で行われてきた。
自分たちの信じる政策を遂行するためには、現行法の解釈にこだわらず、野党の反論には耳を貸さずに突っ走ってきた傾向のある安倍政権が、今回に限って野党が不要と言っている新法を目ざし、党首会談で野党に協力を呼びかけた。実に不可解だ。
「特措法」の狙いは野党の分断か
一部報道では現行の新型インフルエンザ等特措法が民主党政権時に制定されたものであるため、安倍政権がそれを利用するのを嫌ったという解説がなされている。そういう要素もあるかもしれないが、真相は「高度な政治判断が働いた」ということではないか。言い換えれば政府・自民党は、特措法を巡る党首会談を、政局に利用した可能性があるのだ。
新型コロナ対応で新法を作るために党首会談を呼びかける。野党党首たちが応じればそれでいい。仮に応じなければ「野党はこの国難の中で協力しようという姿勢がない」という印象を国民に宣伝することができる。また、野党の足並みが乱れれば、今後の国会運営を有利に進めることもできる。どちらに転んでも、政府・与党として不利にはならないという判断があったのは間違いない。
野党側も、党首会談に応じないという道もあった。しかし、応じなければ国民の批判が野党に向けられるのは間違いない。そこを警戒して会談に応じた。