新型コロナウイルス肺炎「騒動」の出発点は専門家の判断ミス

昨年末に、中国の武漢市で怪しい感染症が広まっているという噂が発生したが中国当局はこれを必死にもみ消していた。

そして今年に入って、その騒動がどんどん大きくなり、1月20日、ついに習近平国家主席が乗り出した。ここで、武漢市が新型コロナウイルス肺炎で大変なことになっていることが世界的に発信された。

日本において感染症に対して政治行政が積極的に対応するためには、まずはその感染症が「法律上に位置づけられる感染症」であることが必要である。

当時、日本において新型コロナウイルス肺炎は法律上の感染症ではなかった。そこで法律上の感染症に指定する作業(指定感染症への指定)が必要になるのだが、それは厚生労働省に置かれた厚生科学審議会の専門家が判断することになっていた。

この専門家会議は、新型コロナウイルス肺炎を指定感染症に指定するのは時期尚早として、指定を見送っていた。その主たる理由は、WHO(世界保健機関)がまだ非常事態宣言を出していないから、というものであった。

WHOも国際的な専門家集団とされているが、彼ら彼女らは、「大騒ぎするな。中国への渡航制限や、中国からの入国制限をやるべきではない」と言い続けていた。

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このように新型コロナウイルス肺炎を指定感染症に指定しない専門家会議は頼りにならないので、安倍政権は、1月28日に政治判断(閣議決定)によって、指定感染症に指定した。法律上の建前は厚生科学審議会という専門家会議の意見を聴かなければならないことになっていたが、安倍政権は頼りにならないこの専門家会議の議論をすっ飛ばし、形式的に専門家の間で書面を回覧する持ち回り決議という方法で手続きを進めたのである。

こうして安倍政権は、政治判断による閣議決定によって、新型コロナウイルス肺炎を指定感染症に指定したわけで、ここでは厚生科学審議会という専門家会議は事実上まったく機能していなかった。

このように新型コロナウイルス肺炎が指定感染症に指定されたことによって、ここから日本政府は、様々な行動をとることができるようになったのである。

2月1日からは、中国武漢市からの入国制限が始まり、感染症法・検疫法の適用も始まった。すべては政治判断による指定感染症への指定から始まったのであり(厳密に言えば入国制限は、感染症を理由とする規定ではなく公安を理由とする規定を使うウルトラCをやったので指定感染症の指定とは関係ないのだが)、当時、専門家たちは、新型コロナウイルス肺炎に対してここまでの危機意識をほとんど持っていなかったのである。

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いまさら「たら」「れば」の話をしても仕方がないし、今の法体系では、誰が対応しても同じ状況になってしまうのかもしれないが、今回の失敗で教訓となったことは、最初の重大な政治判断は、専門家に委ねてはいけないということだ。

専門家に意見を聴きながらも、常に政治が責任をもって判断するという姿勢を強く持たなければならない。専門家の見解を絶対視してはいけないのである。