女性天皇はいても、女系の天皇が輩出されなかった理由

平成から令和への代替わりの年にあって、皇室報道や平成回顧が様々な媒体に掲載されている。ただ、皇室を敬愛している人が多いことは伝わっても、意外に皇室をめぐる情報は少ないし、皇室をめぐる言論はどうも貧しい。

本郷和人『権力の日本史』(文春新書)

それは、近年の皇室をめぐる言論が、「男系男子」vs「女系・女性容認」という皇位継承のあり方や、嫁姑問題などの口さがないゴシップに集中してしまっているからではないだろうか。もっと豊かな歴史を学びたい、と思う人にこそ本書を手に取ってほしい。

日本人はそもそも天皇という存在をよく知っているのだろうか。本書は、日本における身分制が何を守ろうとしてきたのかを明らかにしつつ、権力の実像を伝えている。

本書で投げかけられる問いはどれも面白い。天皇と上皇はどちらが偉いのか、なぜ兄弟間での平等な相続ではなく中継ぎの女性天皇を即位させてまで直系相続が一般的になっていったのか、女性天皇はいてもなぜ女系の天皇が輩出されなかったのか。

そして、天皇だけでなく、貴族の立身出世のパターンを解説することで、ある共通項が浮かび上がる。それこそ、家柄を重んじ、土地持ちの「家」の継承を最優先する考え方だ。いわば、現代の日本政界のあり様にも通ずるような秩序観である。