資本主義か社会主義か

本書の主張は極めてシンプルだ。それは「私有財産を禁止し、あらゆる資本を『使用権のオークション』によって取引することによって、『経済成長』と『格差の解消』という、多くの人が両立は不可能だと考えている問題を、同時に解決できる」ということである。

エリック・A・ポズナー/E・グレン・ワイル『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(東洋経済新報社)
エリック・A・ポズナー/E・グレン・ワイル『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(東洋経済新報社)

さて、この仕組みは果たして「資本主義」なのだろうか、それとも「社会主義」なのだろうか。答えは「そのどちらでもない」ということになる。この「どちらでもない」という点に実は大きなポイントがある。というのも私たちの閉塞状態は大概の場合、「2つのオプションのうち、どちらも最適解ではない」という状況で発生しているからだ。

私たち人間には「モノゴトを2つの枠組みで整理したがる」という性癖がある。「左派か右派か」「リベラルか保守か」「資本主義か社会主義か」「ビートルズかストーンズか」等々。しかし、過去の多くの科学的・社会的イノベーションが二項対立の枠組みそのものを破壊する「第3のオプション」によって提示されたことを忘れてはならない。

本書で著者2人が提示している新しい方向性もまた「資本主義と社会主義」という枠組みでは整理できないものだ。「私有財産の禁止」は言うまでもなく、すべての社会主義国家で実施された施策であり、その点では極めて「左派」的な提案と言える。しかし本書はそのうえで、所有を禁止されたあらゆる財産・資本を「使用権のオークション」にかけることで、財産・資本の死蔵を防ぐべきだと主張する。