神秘性を排し、中国人から見た中国の行動原理

米中貿易戦争が始まってから世界では様々な言説を目にしてきたが、その中で痛感したのは中国が相変わらず神秘的で不可思議な存在として認識されていることだった。

益尾知佐子『中国の行動原理国内潮流が決める国際関係』(中公新書)
益尾知佐子『中国の行動原理国内潮流が決める国際関係』(中公新書)

著者は、中国の民族性や神秘性に関する紋切り型な決め打ちを排して、むしろ中国人から見た中国の行動原理を理解しようとする。そして、一見ちぐはぐにも見える彼らの行動を鮮やかに説明する。

本書によれば、中国の行動原理を読み解くうえで手掛かりとなるのは、帝国としての歴史に基づく自己正当化能力に加えて、特異な権力闘争の考え方、そこに影響を与えている中国の家族制度由来の「親と子」の関係性、そして植民地主義に晒された近代史からくる被害者意識である。

国際政治では、権力政治を中心に物事を捉える思想として現実主義という言葉が使われる。国家は権力を追求し、合理的に振る舞うという考え方だ。ただし、国の規模が違う中国について、通常の国家のように単一の行動主体という前提を置けるかというと、はなはだ心もとない。

本書は、中国は人々が権力を政府に委ねてまとまりのある国家を築くにあたって、いまだ不断の努力が必要な国だと指摘する。言い換えれば、中国では権力者が権力維持に腐心し続けなければならない。