吉野家のメニューは8ページにもわたるという充実ぶり

稲田俊輔『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)

価格の安さは、牛丼チェーン同士の競争の熾烈さを物語っています。そしてその競争はメニューのバリエーションにも現れます。例えば定食類の充実ということに関しては、松屋の独壇場でしたが、吉野家も少しでも追いつけとばかりに定食メニューを充実させています。

牛丼にチーズを乗せたのはすき家による横紙破りともいえる大発明でしたが、吉野家はこれもちゃっかり取り入れました。かつて牛丼と牛皿とお新香、味噌みそ汁、ビールくらいで成り立っていた吉野家のメニューは、今はなんとブック形式で8ページもあります。

かつて吉野家は、男たちが忙しい仕事の合間に一人でカウンターに腰掛け、迷うことなく牛丼か牛皿を注文し、一気にかっ食らって颯爽さっそうと店を出る、そんなイメージでした。今では店は小ぎれいになり、サービスは洗練され、メニューは格段に増え、価格は周りの店に比べてさらに安くなり、結果、女性客やファミリー客も当たり前になりました。

吉野家コピペからにじみ出るオールドファンの声

幅広い客層が気兼ねなく楽しめる店になったことは、もちろんお店にとってもお客さんにとってもいいことですが、そこにかつてあったような独特な「粋」の世界のようなものが失われていることを嘆くオールドファンがいるかもしれません。

吉野家が変わっていく過渡期に、ネットであるコピペが話題になりました。「昨日、近所の吉野家行ったんです。吉野家。」と始まり「吉野家ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。」と主張するそのコピペを一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

それは、吉野家ならではの粋が失われつつあることを敏感に察知した一人のファンによる、ユーモアを隠れみのにした魂の抗議だったのではないかと今となっては感じています。

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