吉野家の味は変わらないが世間は変わった

私が初めて吉野家の牛丼を食べたのは、30年ほど前だと思います。その頃から、体感的には牛丼の味はほぼ変わっていません。もっとも、これはよく言われることですが、長く続く店ほどお客さんにわからないように少しずつ時代に合わせて味を変えていくもの。吉野家もそうかもしれませんが、少なくとも私にとっては変わらない味です。

吉野家の味は大きくは変わっていませんが、それを取りまく世間の味は、実は大きく変わっています。簡単にいうと、この30年間で日本の食べ物の味付けは明らかに濃厚になっています。牛丼だけに限っても、後発のチェーン、後発の商品になるほど濃厚です。ラーメンも各種洋食も、そして実は和食だってそうなっています。

吉野家の牛丼は、30年前なら「今日は味の濃いパワフルなものを食べたい」というときの選択肢だったような気がします。しかし今では逆に「今日は気持ちややあっさり目にしときたいな」というときの選択肢になっているように思うのです。

ある時期から吉野家では「つゆだく」をオーダーする人がとても多くなったといいます。また吉野家で周りのお客さんの様子をうかがっていると、紅生姜しょうがをてんこ盛りにしている人を頻繁に見かけるようになりました。どちらも、吉野家の味は好きだけどできればもっと濃い味で食べたい、と感じているからではないかというのは穿うがちすぎでしょうか。

30年前と変わらないお手頃な価格

牛丼のほかに変わっていないものがもう一つあります。それは価格です。私が最初に吉野家を利用し30年前の価格をいまでも覚えています。並盛400円、大盛500円、特盛650円。30年間上がるどころかむしろ少し下がっています。

一時期はライバル各社並盛290円のラインで戦っていたことすらもありました。さすがにビジネスとして成り立たないと最近では少し戻しても並盛は380円。消費者としてはもちろん安いに越したことはないとはいえ、これは健全なのだろうかと不安になります。