カットロス、縫い代分の無駄がなく、大量廃棄も防げるツール
島さんが発明・開発した無縫製型のコンピューター横編機「ホールガーメント編機」は、アパレル産業における無駄を減らす強力なツールになりうる。
糸さえあれば、入力されたプログラムに従って、機械が自動的に1着分の洋服をそのまま編み上げるという優れもの。型紙に合わせて生地を裁断することも、各パーツを縫い合わせる必要もない。いわば3Dプリンターのニット版である。
高級ブランドのニットウェアや肌着、あるいは、ユニクロの「3D KNIT」シリーズなど、多様な製品に使われているので、その名前を耳にする機会も増えているのではないか。
この機械なら、カットロスも、縫い代分の無駄もないため、原料を有効に活用できる。
利点はそれだけではない。縫製作業が不要なので、賃金の高い先進国(ファッションの主な消費地)でも生産が可能。輸送の手間やコストがかからないのはもちろん、消費地のトレンドにすばやく対応できるため、売れ残りを減らすことができる。昨今、問題となっている衣料品の大量廃棄を防ぐことにもつながるわけだ。
さらに、同社が開発した画期的なデザイン・ツール「デザインシステム」とホールガーメント編機を連携させ、3Dバーチャルサンプルを活用すれば、今後注目されるであろう「マス・カスタマイゼーション」(カスタマイズされた商品を手頃な価格でマスマーケットに提供する手法)や「オーダーメイド/カスタムメイド」に最も適したソリューションとなる。
これこそサステナビリティ重視の時代が求める技術であり、アパレルのビジネスモデルを変えうる革命的な発明なのだ。
構想は、今から30年以上も前
そんな最新鋭の編機なら、ごく最近の発明だと思うかもしれないが、製品としての発表は1995年、構想されたのは今から30年以上も前にさかのぼる。
さらに言えば、島さんがベースとなるアイデアを思いついたのは、半世紀以上も前のことだという。サステナビリティなどという概念が生まれるずっと前に、「これからは、こういうものが必要になる」と確信し、プランを温めてきたのである。
島さんの偉業は、この編機の発明に留まらない。
時代、時代の潜在的なニーズを掘り起こす製品をいくつも開発し、ニット業界のビジネスのあり方や、そこで働く人たちの働き方を変えてきたのだ。
10代から天才発明少年として名を馳せ、約650件もの特許を個人で取得。それゆえ“紀州のエジソン”とも呼ばれるが、着目すべきは発明の数ではない。その発明の革新性こそが、称賛に値するのである。
ないからつくれ。
そして、なくてはならない会社になれ。
それが島精機製作所が掲げるビジョンなのだ。