ブランド力を活かしたプロデュースビジネスで稼ぐ

そしてこの由緒ある歴史都市を土台にして現在進行形で新しい文化を紹介しているのが、ヴェネチア・ビエンナーレです。興味深いのは、この魅力的な場所を用意したのはヴェネチア・ビエンナーレの主催者ですが、これらのコンテンツをつくり出しているのは、参加している国々なのです。なんと主催者であるヴェニス側ではないのです。

秋元雄史『アート思考』(プレジデント社)

毎回激しく競争し、話題を提供する展示などのコンテンツをつくり出しているのは、ヴェニスを目指して集まってくる世界各国のアーティスト、クリエイターたちです。主催者であるヴェニス財団は、場を提供しているだけなのです。それだけでなく、展示にかかる経費の多くは、出品者負担です。

このように出品者に負担を強いる国際展はヴェニス以外にはなく、考えようによっては、なかなか厳しい条件ですが、誰もこれに文句をいいません。それどころか参加国や団体は年を追うごとに増え続けていて、衰える気配はないのです。

なぜ自己負担をしてでもこの時期のヴェニスで展示を行いたいのでしょうか。ヴェニスで成功すればそれだけの影響力を現代アート界で持つことになるからです。それほどヴェニスは、晴れの舞台ということです。

ヴェニス市は、裏方として世界から大勢来る人たちの宿泊や食事、物流を担う、まさにブランド力を活かしたプロデュースビジネスです。一プレーヤーになるよりは、その場をつくり出して仕切るほうが、ビジネス的に見ればはるかに合理的な選択でしょう。

残念ながら、その場所づくりやルールづくりといった、いわゆるプロデュース業は、日本人には不得手な分野です。こういったことが得意なのは、植民地時代に領土を広げ、一度は世界を制したことがある旧宗主国のような国々のように思えるのは、気のせいでしょうか。

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