現代アートを支える重鎮の面々

アートセレブが集まる、二年に一度のもっとも濃密な機会となるのは、ヴェネチア・ビエンナーレの特別公開のために開かれるプレビューの数日間です。

ヴェニス市も熟知していて、ビエンナーレ開催前のこのタイミングが、ホテルもレストランも交通もすべてとんでもなく高い価格に設定されています。「足下を見やがって!」と恨みごとを言いたくなりますが、これがサービス業、観光業というものでしょう。一年のうちで稼ぎ時なのですから、仕方ありません。

この期間中は連日パーティが開かれ、関係者同士のミーティング、食事会が開かれていて、面白いことにそこに参加するスーパースターのアーティストやアート関係者に会うために、リッチなセレブたちも集まってくるのです。

自分たちもアートに関する最新の情報が欲しいのです。アートがまさに誕生する貴重な場面に自分もいたい、有名アーティストたちと時間と場所を共有したいということなのでしょう。

どんな場所であってもお金がかかりますが、それでも世界のアートセレブは、ヴェニスを目指してくる。そんな二年に一度の機会に、忙しい最中でも顔を出していたのが、アンカシェール美術財団(旧原美術館財団)前理事長の原俊夫やベネッセHD名誉顧問の福武總一郎や大林組会長の大林剛郎、森美術館理事長の森佳子たちでした。

日本からの常連は、現代アートのよき理解者のこのメンバーぐらいでした。ちなみに、ここで紹介した皆さんは、多くの来館者で賑わう現代アートの美術館を運営していたり、素晴らしいコレクションを持っていたりする方々です。

ヨーロッパ人憧れのヴェニス・ビエンナーレ

街を挙げてのこの一大イベントであるビエンナーレは、二年に一度開かれる現代アート部門だけではありません。

他部門になりますが、毎年開催されるのが映画、演劇で、美術同様、二年に一度の開催が、建築、音楽、舞踊です。こうなるとヴェニスでは、いつもどこかで国際的な文化の祭典が開催されていることになります。

毎年、世界中からヴェニスを目指して、セレブたちが集まってくるため、街はいつでもどこでも大騒ぎで、人が動き、ものが動く、文化による一大観光産業です。

こういった一大観光産業、文化産業をつくり出すイタリア人のビジネスセンスは、日本人も見習う必要があるでしょう。ローマ時代にまで遡ることができる文化資産を持ち、イタリアルネッサンス期には、ローマ、フィレンツェ、ヴェニスなどが栄え、そこで花開いた文化は、いまだにヨーロッパ人の憧れです。

ビエンナーレの会場で見せているものは、新しい現代アートですが、ヴェニスの街は、古く、中世の町並みや建物や調度品が至るところに残っています。貴族の館がレセプション会場や展示会場に使われていて、食べ物が美味しい。

ヴェニスにいると歴史の中に身を置いているかのようです。このように街が魅力的で、食事が美味しく、歴史を感じることができるのが、文化的な観光の基本なのだと思います。

ヴェニスのように、歴史、伝統、芸術文化といった無形の価値を街の至るところで感じることのできる都市は、一朝一夕で出来上がるものではなく、また一人の権力者によってできるものでもないのです。

都市にいる多くの人々が無形の文化に気づき、大切にし、それらをうまく保存・活用する知恵を持っているからです。すぐに結果を求めるばかりではなく長い時間軸の中で、文化と街づくりとビジネスを捉えているのです。