ウェディングケーキの代わりに「シウマイカット」
さて、同社の経営理念の2番目は「シウマイだけに頼らない」という意味のものだ。
野並はなぜ、主力商品に頼ってはいけないかを話す。
「主力商品が成熟期となり、衰退期になる前に次の成長商品を開発するのは経営としては当たり前のこと。いまはシウマイやシウマイ弁当がよく売れている。けれども、果たして将来的にも売れ続けるのかどうかはわかりません。だから、その間に次の商品を開発し続けなくてはならない」
同社にも、「崎陽軒はシウマイ屋なんだから、シウマイの関連商品を売るのが一番だ」という社員はいる。
それでも、野並は手を緩めない。事業分野を5つに増やし、それぞれの分野に目を配っている。
「私が社長になったときの事業分野はシウマイ類・弁当類・レストランの3つだった。社長として事業の柱をあと2つ加えると決めました。
ひとつは本店事業。レストランとしてだけでなく、結婚式など宴会需要を掘り起こす。披露宴で『シウマイカット』と言って、ウェディングケーキの代わりにシウマイにナイフを入れるイベントをやっていて、結婚式以外の宴会での利用も増えています。
ふたつめの新事業は点心。春巻きや中華饅頭だけでなく月餅のような菓子も入ります。私は思うのですが、これまで日本人の口に合う中華菓子はなかった。だから、日本人に合う中華菓子を作ろう、と。たとえば月餅のあんこを和風のさっぱりしたものに変えたり、月餅の大きさをひと口大にしたり……。いろいろ工夫してやっているんですよ」
サントリーのビール事業進出を思い出した
崎陽軒の野並の話を聞いていて、わたしはサントリーの2代目社長、佐治敬三の話を思い出した。彼はサントリーウイスキーが市場を寡占していたとき、ビールに進出した。
「ウイスキーの売れ行きにあぐらをかいてはいけない。社内の緊張感を高めるために、おいしいビールを造る」
サントリービールはなかなか売れなかった。プレミアムモルツが出て、ビール事業が黒字化したのは参入してからなんと45年目である。
今、崎陽軒は点心の開発に力を注いでいる。しかし、あきらめなければ、いつか日本人の口に合うものができる。そうすれば次の事業の柱になる。シウマイの売れ行きにあぐらをかいてはいけないというのが彼の本意だろう。
最後にわたしは訊ねた。
「社長、昔、シウマイ娘というPR女子が横浜駅でシウマイを売っていました。月餅娘というのをやればいいのでは?」
野並はにやりと笑った。
「月餅娘。いいね、それ。あなた、いいこと言うね」(敬称略)