シリコンバレーで見た「力の根源」
これからアメリカはどうなってしまうのか。このまま世界のリーダーの座を失うことになるのか。外交官時代、これまでも何度もアメリカは終わった、もう駄目だと思う時代があった。しかし、鉄鋼が下火になれば自動車産業が、自動車が衰退すればITや金融産業が成長し、いまはAI(人工知能)の時代だと言われている。こういった技術革新で危機を乗り越えてきたのがアメリカだ。
私は総領事としてサンフランシスコに駐在したとき、シリコンバレーに何度も足を運んだ。シリコンバレーは、アメリカの経済から一歩先を行く場所だ。シリコンバレーに行けば、アメリカの未来が見えてくる。街に勢いを感じたこともあるし、瀕死のように思えたときもあった。しかしシリコンバレーは、何度も画期的な技術革新によってダイナミックに回復してきた。トランプの政策が進めば、アメリカという国が持つこういった力の根源を失うことになりかねない。
移民を排除すると、アメリカは「終わる」
アメリカが何度でも立ち上がることができるのは、彼らが常に競争のなかで生きてきたからだ。中国は膨大な人口のなかから優秀な人材を見つけ出す。だが、アメリカでは厳しい競争のなかから人材が頭角をあらわす。移民がどんどん押し寄せるアメリカでは、国民は常に競争にさらされ、そこを勝ち抜くための教育を受ける。そのためのシステムが出来上がっているのだ。
移民を排除すれば、アメリカ国民は競争を経ることなく職や収入を得られるようになるだろう。だが、同時にアメリカのアイデンティティー、力の根源を失うことになりかねない。そうなると本当に「アメリカは終わった」という時代が訪れるようになるのかもしれない。
私は、トランプのような政権が長続きするとはとても思えない。いずれ揺り戻しはくるだろう。今後、トランプが弾劾されたり、再選ができなかったりという可能性は大いにある。だが注意しなければならないのは、トランプに代わって出てくる新しい大統領が、いまの大きな流れを引き戻せるか、再びアメリカが“持ち出し”をしてでも世界の統治にあたるような世界に戻そうとするかどうか、という点である。