【武部】そうですね。欧米の一流機関で教授になろうと思えば、ノーベル賞級の教授たちの前で黒板を使って自分のヴィジョンを語ることを求められます。比較的近い未来のヴィジョンから長期のヴィジョンまで、ぜんぶ語れないと採用されません。

【田原】教授になった後も違いますよね。米国はつねに論文を出し続けていないと教授に留まれませんが、日本の教授はほぼ終身雇用だ。

50代の研究者がクビになりました

【武部】いま私は米国の研究機関にも勤めていますが、つい最近、50代の研究者がクビになりました。厳しい世界ですが、緊張感を持ってやり続けることが必要だと思います。

【田原】成果を問う一方で、失敗を容認するのも米国。たとえばAIの開発は失敗がつきものなのに、日本企業はそれを許さないから優秀なエンジニアは日本にこない。医療でも同じことが起きているんじゃないですか?

【武部】そうですね。私は研究室を「人がズレてる」「プロジェクトにブレを持つ」という2つのコンセプトで運営しています。プロジェクトにブレを持たせるということは、むちゃくちゃなものにも挑戦させるということ。当然、繰り返し失敗するのですが、日本ではこのブレが許されない。一方、米国はブレを認めてくれます。そうなると、イノベーティブな研究は日本より米国でやらざるをえない。いまは米国と日本の両方で研究していますが、米国で芽を出させて、それを日本の研究室で成長させています。それでうまく回っているので私自身は困りませんが、日本のことを考えると、本当にそれでいいのかなと。

【田原】武部さんはいま米国でどんな研究をしているのですか?

【武部】スタンフォードのときから始めていた研究をちょうど先日「Nature」で発表しました。先ほどミニ肝臓は長生きできないという話をしましたが、その理由はシンプルで、肝臓は体の中で単独で浮いているわけではないから。肝臓は胆管という別の臓器に繋がり、膵臓とくっついて最後は十二指腸に繋がっています。これらの臓器と繋がってなければ、肝臓は機能しません。そこで新たにミッションとして掲げたのが多臓器一括再生です。

【田原】そんなことできるんですか?

【武部】人間は受精してから10カ月で生まれてきますが、1カ月の段階ではまだ多臓器ではなく、それから数日を経て多臓器になる。その直前の状態を設計して作れば、あとは自発的に肝臓、胆管、膵臓、十二指腸ができるのではないかという仮説に基づいて研究を続けて、それがようやくできるようになりました。

【田原】その研究は日本じゃ無理?