【武部】同じような研究を日本で申請しましたが、すべて落とされました。米国では採択されて1億円取れましたが、日本では1000万円の研究費も取れませんでした。

【田原】研究者としては米国でやったほうがいいと思うけど、武部さんは日本にも研究室を持っていますね。

肝臓を使ってほかの臓器の病気の薬も開発

【武部】いま日本でも、東京医科歯科大学、横浜市大、あと武田薬品の中で山中先生と一緒にやっているラボの計3つで研究をしています。武田薬品での研究は薬の開発です。肝臓は重要なたんぱく質を作るので、肝臓を使ってほかの臓器の病気の薬も開発できる。それも大事な研究なので、ずっと米国にいるわけにもいきません。

【田原】東京医科歯科大学と横浜市大では、最年少の教授になった。閉鎖的な日本の研究環境だと孤立したりしませんか?

【武部】言いづらい部分がありますね(笑)。でも、そういうものも含めてサバイブしないといけないなと。

【田原】もう1つ、武部さんは再生医療のほかに「広告医学」に取り組んでいる。これは何ですか?

【武部】医学は過去2000年間、ヒポクラテスがメディシン・フォー・ディジーズ、つまり医療は病を治すためにあると定義してから、外科学や内科学、精神科学のように体系だったものが実践され続けてきました。でも、いま私たちが対峙している病気は、外傷や感染症のような命に直接の危険があるものばかりではなく、生活習慣病や精神病のように生活の場で捉えなくてはいけないものも増えてきた。それらに対応するには、薬や手術だけでなく、ファッション、不動産、家電、環境デザインまで含めたコンテクストで医療を設計する必要があります。

たとえば服に心臓のセンサーがついていて、異常があればアラートを出したり、家の中にヘルスケアのテクノロジーを実装するのもいい。これまでの医療を拡張するつもりで、「広告医学」という言葉を作って研究を進めてきた結果、横浜市立大学医学部にコミュニケーション・デザイン・センターという組織を開設することができました。

【田原】山中さんがこう言っていました。将来は医療の進歩で寿命が120歳になり、病気になったり介護が必要な人が増える。寿命が延びるのは本当に幸せなのか。そのとき医学は何をやればいいのかと。

【武部】そうなんです。結局、大切なのは、人としてどう生きるかということ。だから医学をメディシン・フォー・ディジーズから、メディシン・フォー・ヒューマニティーに再定義していくことが大事なんじゃないかと。

【田原】考え方はよくわかります。具体的にはどうやってやるのですか?