介護ヘルパーの仕事で「相手に後ろ姿を見せてはいけない、ドアは開けたままにする」という注意事項がある。どういう意味なのか。20年以上のヘルパー経験を持ち、介護職員の処遇改善を目指して活動する藤原るかさんが、訪問先での実体験を語る——。
※本稿は、藤原るか『介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
全裸で立ちはだかる青年にどう対応するか
私が「ヘルパーは利用者のセクシャルな部分に関わる仕事でもある」と意識したのは、まだ若かりし35歳のときです。当時はまだ介護保険制度が始まる前で、私は自治体に勤務する公務員ヘルパーでした。
ヘルパーになりたての私は「もっと勉強しなくては」と、都内で行われていた「在宅ケア研究会」という勉強会に参加。先輩ヘルパーが実際に経験した事例をもとに、ヘルパーとしての心構えや対処方法などを学び合っていました。
その日のテーマは「精神に病のある青年が全裸で立ちふさがったときに、どう対応するのか」というもの。それまで訪問先の利用者は受け身でいるものだと思っていた私は、その場面を想像するだけで足が震えました。
それと同時に「生身の人間を相手にするというのは、こういうことなのか」と、ヘルパーという仕事の意外な側面を教えられたのです。
世の中には、道端の電柱の陰から全裸にコートを羽織った男が女性を驚かし、その姿を見て喜ぶ露出狂の人がいます。そういうとき、多くの女性は「きゃーっ」とか「あっ」とか叫んで逃げ出すことでしょう。私も走って逃げます。
しかし、ヘルパーはそういうわけにはいきません。私たちには「身体介護」(食事や排泄の介助、衣服の着替え、入浴介助などの身体的な介護のこと)と「生活援助」(献立や調理、衣類の洗濯、部屋の掃除など、日常生活の援助を行うこと)という仕事があり、それをやらずに利用者宅を離れるわけにはいかないのです。