100時間勉強した後、どれだけ粘れるか

【三宅】話が変わりますが、山崎さんはロシア語も相当上手だとお聞きしています。船内のコミュニケーションは英語ではないんですか?

【山崎】基本は英語です。たとえば私が地上にいる日本人と交信する場合でも、ほかのクルーも聞いているので英語で行います。ただ、国際宇宙ステーションの滞在クルーの半分はロシア人で、彼らは英語を話すのですが、地上の管制要員でロシア語しか話さない方がごくまれにいらっしゃるんです。

【三宅】え!? そんな方がいらっしゃるんですか(笑)。

イーオン社長の三宅義和氏
撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏

【山崎】はい。だからロシア人だけはロシア語で会話をすることがよくありますし、ロシアのソユーズ宇宙船が国際宇宙ステーションの救命ボートの役割を担っていますので、ロシア語を学ぶことは必須なのです。

【三宅】どうやって勉強されたんですか?

【山崎】日本で訓練を受けていたときは日本語の教科書や日本語の先生から学び、アメリカに移ってからは英語でロシア語を学ぶ形になりました。心構えとして大事だなと思うのは、語学の習得には時間がかかるということです。「最初の2000時間はとにかく辛抱してがんばりなさい」と先生からよく言われました。

【三宅】外国語はどうしても学習カーブが停滞することがありますからね。

【山崎】はい。最初の100時間ぐらいは結構バッと上がるので、それで少し話せるようになってうれしくなるフェーズがある。でも、そこからだんだん成長曲線がなだらかになって、ちょっともどかしいフェーズに入っていく。でもそこで「結果が出ない」とあきらめてはダメだということですね。私たちの1つの基準だと、英語やロシア語の能力を測るときは会話型のテスト形式をとるのですが、そのインターミディエイト・ハイ(Intermediate High)やミディアム(Medium)というレベルを取るには約2000時間が目安だと言われていました。

【三宅】それが語学学習の現実ですね。

ロシア語は意外とマスターしやすい?

【山崎】そう思います。ただ、ロシア語は英語と比べると音が非常に扱いやすい言語で、日本語のひらがなのように、ひとつのアルファベットがひとつの音に対応しています。ですから文字を見れば読めます。文法はすごく難しいですが、慣れてしまえば逆にマスターしやすい言語だと思いました。英語は、文法は比較的シンプルですが、発音や言い回しが難しいですよね。

【三宅】ではリスニングもロシア語の方が簡単なんですか?

【山崎】はい。聴きやすいし、発音もしやすいです。

【三宅】そうですか。ちなみにロシアの方で何か性格的な特徴のようなものを感じましたか?

【山崎】よりアジア的だと思います。ちょっといかめしいという印象を持つ方もいらっしゃるでしょうが、非常に義理人情に厚い方が多いですね。あと、本音と建て前をしっかり使い分けるのです。アメリカ人は比較的フランクという印象なので、その差は面白いなと思いました。

【三宅】なるほど。ロシアの方が宇宙に行かれて、お酒を飲めないのでストレスがまるとか。

【山崎】まると思います(笑)。