痴漢を防ぐ効果的な対策が見つからない中、文具大手のシヤチハタが「痴漢対策用スタンプ」の商品化を検討すると明らかにし、議論を呼んでいる。法政大学ビジネススクールの高田朝子教授は「一方的に加害者の判を押される側の立場も考えるべきではないか」と指摘する――。
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シヤチハタが「痴漢撃退スタンプ」を作ると表明

痴漢に遭った際に犯人を刺せるよう、自己防衛のために安全ピンを持ち歩くという話が、今年5月にTwitter上で話題になった。中学時代に痴漢被害に遭った際に保健の先生から受けたアドバイスを、女性が漫画にして紹介したもので、瞬く間に多方面に拡散され賛否両論の論争となった。

この投稿から約1週間後、シヤチハタ株式会社(名古屋市)が公式Twitterアカウントで「今現在Twitterで話題になっている社会問題の件ですが、早期に対応ができるようにします。ジョークではなく、本気です」と宣言した。護身用の痴漢撃退スタンプの開発を検討すると明らかにし、多くの女性たちから喝采を浴びた。

その後、「最初にご提案できるのは従来のネーム印とほぼ変わりません。今後段階的に形にできればと考えております」「目指すべきはこの社会問題が根絶され、“護身用グッズが必要ない世の中”になる事です」と続けて投稿し、この問題に会社として本気で取り組むことを示した。これに対して、圧倒的な賛成の声と、冤罪を危惧する声とで同社のTwitterは一時、甲論乙駁の状態になった。

製品化の経緯について、同社広報部は「公式ツイッターへの投稿を担当する女性社員が、ネット上のやり取りに反応したことから社内でプロジェクトが始まった」と説明。「具体的な商品像はこれから議論するが、会社として対応すべき問題と捉えている」と答えている。(毎日新聞<痴漢に「刻印」護身用スタンプ開発へ シヤチハタ「本気です」 ネットで反響「証拠になる」>2019年5月28日

同社は、かねてから社会的問題を製品によって解決することを重視し、同スタンプもその一環として位置付けているという。

被害者目線で語られることが多いが……

人生の長い期間、満員の通学・通勤電車と縁が切れない筆者にとっては、痴漢問題は身近である。若い頃は痴漢の恐怖におびえ、年を取ってからは月に何度かは車両のどこかで起きた痴漢への対応で電車が遅延し、予定に遅れそうになり焦る。

痴漢問題は首都圏の満員電車を毎日利用する者にとって、常に意識のどこかにあるといっても過言ではない。多くの人は、車内放送で聞かれる「お客様トラブルのために電車が遅れます」のアナウンスに、痴漢の発生を想像し、溜め息をついて痴漢をする人への怒りをあらわにする。迷惑を掛けられた人は加害者に鉄槌を下したい気持ちを持つ。

被害者の感情を想像し、寄り添い憤ることはたやすい。痴漢問題は、大多数の人が被害者の視点で事態を考え、憤る。しかし、筆者は友人のある経験から、痴漢問題に別の視点を持つようになった。身に覚えのない「加害者」の烙印(らくいん)を押された人の視点である。

古い話になるが、他大学に勤める同業者の友人の教え子が、満員電車の車内で痴漢を疑われた。教え子の青年は一貫して無罪を主張したが警察に引き渡された。

警察がどのような対応だったのかは筆者は分からない。ただ事実として知っているのは、彼がその後程なくして自殺したことである。