「本当にいろいろな縁に導かれて今の自分があることを、インディアンとの関わりから学びました」。作家中上健次との“縁”が契機となって始まったフィールドワーク歴も20年を越え、今や日本におけるインディアン研究の第一人者となった著者が強調するのは、人を結ぶ縁、その「つながり」の大切さだ。
「無縁社会」といわれる現代の日本と対照を成す、ラコタ・スー族の社会。蔓延するアルコール中毒に失業率は8割強と、全米最貧レベルの生活を余儀なくされながら、餓死者も出なければ孤児もいない。「コロンブスのアメリカ“発見”から500年の受難の歴史を経ても、インディアンの共同体、すなわち人のつながりは根強く生き続け、互いの生命を守り合うという知恵が引き継がれているのです」。
人のつながりによる互助の精神は、「ケチは泥棒より悪い」という価値観や、持っているものすべてを他者へ与え尽くすという伝統儀式「ギブアウェイ」にも息づいていると指摘する。モノは必要な間、必要な人のもとに留まっていると考える彼らにとって、「人生は足りることになっている」のだ。
こうした心を震わすエピファニー(epiphany)すなわち“気付き”を通して、よりよく生きるための叡智に目覚める。そんな19編の学びの軌跡が、「持つに相応しいものは、自ずとやってくる」や「人はそれぞれの歌を持つ」といった、気付きの契機となった印象的な言葉を軸に語られる。なかでも「今日は死ぬにはいい日だ」という、『葉隠』にも通じる死生観や、三島由紀夫の『憂国』の美意識に共感を示す女学生のエピソード、また日露戦争の名将野津道貫(みちつら)とインディアンとの邂逅といった歴史秘話など、日本人とインディアンの意外なつながりの深さには、興味を引かれることだろう。「文化や伝統は、荘厳な建物や高尚な芸術にではなく、人々の生活の中にこそ息づく」と、自論をエネルギッシュに語る著者。そのパワーは行間から滲み出し、読む者を元気にする。