霞が関の官僚機構のなかで、財務官僚は頂点に君臨する。東大法学部卒を中心に、毎年20数名が採用され、国家公務員試験の上位合格者ばかり。財務省には、エリート中のエリートが集まる。
それだけに財務省を描いた本は数多い。だが、中身をエリートたちの「出世」と「人事」に絞って詳細に語ったものは、おそらく本書が初めてだろう。財政赤字問題や消費税論議などの小難しい話はなく、論旨が明確なので読みやすい。しかも、30余年に及ぶ取材をもとに描かれているので中身も濃い。
「新聞記者時代に大蔵省(当時・以下同)担当になったものの、30歳そこそこの若造が、主計や主税、理財局などにいって官僚と話をしても、何を聞いていいのかわからない。会話が続かないんです。夜討ち朝駆けもやっていましたが、相手の懐に入っていけなかった」
夜討ちが空振りに終われば、新聞社に戻る記者が多いが、若手記者だった著者は、そのまま庁舎に戻ったという。
「いまでもそうですが、不夜城なんです。特に30代の課長補佐や主査クラスが、みんな遅くまで仕事をしている。そこで、彼らと話をする。仕事の話などよりも、人事の話などをすると身を乗り出してくるんです。深夜で上司はいないし、相手は私と年齢も近いといった気楽さがあったんだと思います」
記者として、雇用や人事といったものに関心があったという。それが幸いして、若手官僚たちと円滑な関係を築くきっかけになり、大蔵省担当の記者としてのネタ集めにも大いに役だった。
こうして積み重ねてきた取材メモは1000枚にも及ぶ。本書は、その集大成である。
例えば、昨年の政権交代で日本郵政の社長に就任した、元大蔵省事務次官の斎藤次郎氏、非主流の国際金融局長(現国際局)時代に超円高を円安方向に誘導して“ミスター円”の異名を取り、事務次官に次ぐポストである財務官になった榊原英資氏などには一章を割いている。
一方で、極めて優秀な人材が揃ったといわれる「花の41年組(入省年次)」の事務次官候補といわれたエリートたちが、スキャンダルで消えていく様は物悲しい。
彼らの出世の3要素を「センス、バランス、度胸」と断言する。それは一般の企業でも変わらない。なるほど、彼らも人間だったと、当たり前だが、妙な気持ちにさせられる。官僚叩きや官僚批判がかまびすしい昨今に一読の価値がある。