「貧困者が23.2%、でも、幸せですかと尋ねれば、国民の97%がはいと答える国、それがブータンなんです」
そう語るのは、麗澤大学国際経済学部教授の大橋照枝さん。この10年来、人間を幸福にする社会のあり方をテーマに研究を続けてきた。だから、2007年に新聞記事でブータン国勢調査の「97%」という数字を知ると、すぐにかの地へ飛んだ。
ヒマラヤの小国、ブータンは人口約67万人で鳥取県より少し多く、面積は九州より少し大きい。そして「30年前から、GDPではなくGNH(Gross National Happiness、国民総幸福)を国是として掲げてきた国なんです」。
本書にしたためられた、大橋氏がブータンの地で実際に目にした人々の暮らしぶりは、日本の私たちにとって、軽い衝撃とも、安堵とも言える何かがある。
「フォブジカ谷という村では、オグロヅルが飛来するからと電線を敷かない。暗くなったら寝る、私たちはそれで幸せですと。あるいは、道端に寝そべっている犬を『野良犬ですか』と尋ねたら『いいえ、私たちみんなの犬、みんなで餌をあげて可愛がっているんです』と答えるんです」
だから「約4分の1の国民が貧困者であるはずなのに、物乞いや路上生活者がいないんです」。宿を提供したり、食事を分けたり、互いに助け助けられて生きているのだという。
「つまり、GDPでは駄目だとよくわかったんです。オグロヅルのために電線を敷かなければGDPは伸びない。でもそれと人々の幸福度は関連がないと」。ノーベル賞受賞経済学者スティグリッツが仏サルコジ大統領主導でスタートした通称スティグリッツ委員会においてGDPの限界に言及し、生産量から幸福度に重点を移す必要を説いたのは08年のことだ。
では、人間の幸福度とは。
「ブータンの人は、家族と一緒にいるときが私は一番幸せだと言うんです。100歳の行方不明者が多発する日本とはまるで違う。家族三世代が身を寄せ合って暮らし、家族こそが社会のセーフティネットで、幸福の源泉はそこにあるのだと。知足小欲の意味を教えてくれるんです」
もちろんブータンは桃源郷などではない。近代化への途にあり、問題は目前に山積だ。それでも、人々は今日も幸せだと言って暮らしている。そのことの尊さを思う。「最小不幸国家」を目指すというわが国。最小不幸とは何だろう、「幸福立国」に触れて改めて思う。それは幸せとは違う? 幸せとは何だろう?