「年金だけでは不十分」は世間の常識だ

老後の資産形成について「2000万円必要になる」とまとめた金融庁の報告書をめぐって与野党の攻防が続いている。沙鴎一歩はこの報告書は、金融庁の本心から出た内容だと考えている。つまり老後に豊かな生活を送るためには、年金だけでは不十分だということだ。

しかしそんなことは金融庁に言われるまでもなく、これまで散々指摘されてきたことだ。なぜ安倍政権はこの報告書について「受け取らない」などといっているのか。

参院決算委員会で答弁する麻生太郎財務相=6月10日、国会内(写真=時事通信フォト)

報告書は「高齢社会における資産形成・管理」と題し、首相の諮問機関の金融審議会の作業部会が6月3日に公表した。金融庁が金融審議会の事務局を務める。金融庁審議会のもとに設けられた有識者会議のひとつである、市場ワーキング・グループ(大学教授や金融機関の代表者ら21人の委員で構成)が昨年9月から12回、議論を重ねた後、金融庁内部の了承を得てまとめ上げた。

高齢化が進むなか、個人が備えるべき資産や必要な金融サービスについて安定的に資産を築けるようにすることが審議会の狙いだった。

与野党が問題にしているのは、報告書が「収入が年金中心の高齢夫婦の世帯は、収入よりも支出が上回るため、平均で毎月5万円の赤字になる。老後30年間これが続くと、2000万円が必要になる」と試算し、「赤字分は貯蓄などの金融資産から取り崩す必要がある。現役世代から長期の投資を行い、資産形成を進めるべきだ」と指摘している部分である。

「年金こそが老後の生活設計の柱だと思っている」

この部分に対し、野党から「国民の不安をあおっている。年金の『100年安心』はうそだったのか」と反発の声が上がった。

諮問して報告書を求めた麻生太郎・副総理兼金融担当相は公表直後の4日の記者会見では「100歳まで生きる前提で自分なりにいろんなことを考えていかないと駄目だ」と話して報告書の中身を肯定していた。

しかし、参院選の争点にする野党の動きが出てくると、麻生氏は7日の記者会見で「貯蓄や退職金を活用していることを、あたかも赤字ではないかと表現したのは不適切だった。一定の前提で割り振った単純な試算だった」と修正した。

菅義偉官房長官も7日午後の記者会見で「家計調査の平均値に基づいて単純計算したものとはいえ、誤解や不安を招く表現であり、不適切だった。政府としては将来にわたり持続可能な公的年金の制度を構築しているので、年金こそが老後の生活設計の柱だと思っている」と話し、「100年安心の年金」を強調した。