定年まで会社を勤めあげれば、多くの人は退職金を手にする。突然、大金を手にした人は、金融機関にとって格好のターゲットだ。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は「まとまった額をそのまま投資に回してしまうと、大きなリスクを抱えることになる」という。退職金を狙う「ハゲタカ」バンクの生態とその対策は――(後編、全2回)

退職金の運用に失敗してしまう2つの理由

前編では、投資ビギナーである定年退職者の方々が、退職金を運用する場合に金融機関から勧められる具体的な金融商品の事例を紹介した。後編では、退職金の運用に失敗してしまう理由とやっておくべき対策について解説したい。

前編で挙げた3つの事例(「退職金専用定期預金」「投資信託」「外貨建て保険」)は、定年退職者の退職金の運用に際して、「金融機関が提供するこの商品は要注意」なものとしてしばしば挙げられている。

しかし筆者は、これらの商品自体にそれほど問題があるとは感じていない。問題は、金融商品を提供する売り手と購入する買い手が、ミスマッチを起こしていることなのではないだろうか。

そして、退職金の運用が失敗しがちな理由は、第一に、投資家のリスク許容度が正しく把握されていないこと。第二に、売り手と買い手に大きな情報の格差があることの2つである。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/jesadaphorn)

まず、「リスク許容度」とは、資産運用に伴って発生するリスク(損失)をどの程度受け入れられるか、投資家の許容できるリスクの範囲のことをいう。例えば、年齢、収入、保有資産、投資期間、投資経験など、定性的に測ることができるものだ。

利用者保護の観点から、金融機関では、顧客のリスク許容度や、契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を法律で禁じている(金融商品取引法の第40条「適合性の原則」)。

つまり、金融機関は、リスク許容度があまり高くないシニアに、ハイリスクな商品を売ってはいけないのだ。

しかし、相談者からの話を聞く限り、金融機関が、どこまで顧客のリスク許容度を正しく見極めて商品を提供しているのか、甚だギモンに感じる部分も多いし、最終的には、投資家が自己のリスク許容度を正しく把握して、投資可能な範囲を決めるしかない。これがいわゆる自己責任と称されているものである。

金融のプロvs素人「圧倒的な情報格差」ゆえの失敗

とはいえ、リスクを取って投資をすることに慣れていないと、前編・事例2のAさんのように、投資信託の多少の値動きで動揺してしまい、投資を続けるのが怖くなってしまうというわけだ。

退職金の運用が失敗しがちな2つ目の理由の「情報の格差」については、言うまでもない。

金融商品の売り手と買い手の間には、金融商品のしくみや内容を理解する上で、歴然とした情報や知識の差がある。とくに最近は、商品の開発スピードが速く、どんどん新商品が登場して、投資家はそれについていくことができない。

事例3のBさんのように、債券のつもりで保険を契約してしまったのは、売り手側の説明が買い手側のBさんに正しく伝わらなかったことが原因である。どれだけ、丁寧に説明していても、相手に伝わっていないのでは、意味をなさない。