賢い人が実践している退職金の上手な増やし方
ポイント2:まとまった額をそのまま一度に投資に回さない
退職金は、数千万円単位のまとまったお金なので、ついそのまま丸ごと運用しがちだ。しかし、そのまま一度に投資へ回すのは得策とはいえない。
なぜなら、運用を始める時期と、投資に最適な時期が合致するとは限らないからだ。投資金額が大きいだけに、投資を始めた時期やタイミングによっては、すぐに時価が下落して、慌てる人も少なくない。
そこで、お勧めするのは、NISA口座など、税制優遇の受けられる制度を利用する方法である。
一般のNISAは、年間120万円(2016年1月以降。それ以前は100万円)、つみたてNISAは、年間40万円までの上場株式や投資信託などの運用益や配当金が非課税になる。退職金を、リスク性商品で運用したい場合でも、NISA口座なら、年間非課税となる枠が決まっているので、「投資に回すのはNISA口座の分だけ」と決めておけば、わかりやすいし安心だ。積み立てにすることで、投資時期や期間、タイミングなども分散できる。
実際、金融庁の「NISA口座の開設・利用状況調査(2018年9月末現在)」によると、NISA口座開設者の49.8%を60歳代以上が占めている。
ポイント3:わからない商品には手を出さない
そんな投資ビギナーのシニアにもお勧めのNISAだが、しくみをきちんと理解し、自分のニーズとリスク許容度に合った金融商品を選択しなければ、恩恵を享受するのは難しい。
先日、定年退職を迎えたDさん(63歳)は、NISA口座を利用して、株式を120万円購入した。その後、どんどん値下がりするので不安に駆られ、同一年内に100万円で売却してしまった。その後、別の銘柄を購入しようと思ったが、売却した120万円の非課税投資枠は再利用できないと後から知った。
せっかく投資をしてみようと意気込んでいたDさんだが、証券会社から送られてくる資料は難しくてよくわからないし、たくさんある商品の中から選択するものひと苦労。自分には向いていないと、Dさんは投資を諦めたという。
Dさんから、この話を聞いた筆者は、「NISAには、ロールオーバーという制度があるので、5年間の非課税期間が終わっても、新たな非課税枠に繰り越して延長できたのに……」とコメントしたのだが、Dさんは損切りよりも、もうワケがわからない金融商品はこりごりといった様子だった。
そしておそらく、Dさんのような方は多いのではないだろうか。
投資で勝ち続けるのは至難の業。失敗と成功を繰り返してノウハウを身につけていくものだが、継続的な収入が見込める現役世代と比べて、手持ちの資金が限られているリタイア世代にはそれだけの精神的、経済的余裕がない。
となれば、自分自身がわからない商品には手を出さない、投資をしないというのもひとつの選択肢。投資は「家計の救世主」ではないのだから。投資よりも、支出を見直ししたり、できるだけ長期間働いて収入を得たりするほうが、家計改善法としては、よっぽど効率がよく、確実な方法である。