この夏の輸入には十分な配慮がない

厚生労働省と国立感染症研究所(感染研)は5月30日、エボラ出血熱などの5種類の生きた病原体ウイルスを輸入することを公表した。いずれのウイルスも致死率が高く、日本の感染症法で危険な1類感染症に指定されている。こんなウイルスを生のまま輸入するのは初めてだ。輸入はこの夏に行われる予定だが、テロ対策上から輸入の日時や経路は明らかにされていない。

断っておくが、致死率の高いエボラ出血熱の対策として生のエボラウイルスを使うことには賛成だ。生きたウイルスがあれば、その人が感染しているか否かについてより正確で早い検査ができるし、治療薬やワクチンの研究開発にも役立つからである。

しかし、この夏の輸入は拙速だ。「東京五輪対策」といえば、何でもOKなのだろうか。エボラウイルスに感染すると、最大で90%の人が命を落とす。極めて致死率の高い感染症である。そんなウイルスを輸入するというのだから、対応は慎重でなくてはならない。

エボラ出血熱など最も危険度が高い感染症の病原体を扱える「バイオセーフティーレベル(BSL)4」に対応した実験施設のある国立感染症研究所村山庁舎=2014年11月17日、東京都武蔵村山市(写真=時事通信フォト)

もっと早く輸入に踏み切るべきだった

確かに東京五輪で日本を訪れる外国人は増え、それに比例して危険な感染症の侵入もあり得る。エボラ出血熱の病原体のようなキラーウイルスが入ってこないとは言い切れない。

厚労省は「だから対策が急がれる」と強調するのだが、ここで五輪を持ち出すほど、病原体を扱う施設の周辺住民に誤解され、反発を買う。すでに住民の反発を煽るようなテレビ番組も流れている。

沙鴎一歩は、もっと早い時点で輸入に踏み切るべきだったと思う。厚労省のこれまでの対応が鈍かったのである。

5種類のウイルスは冷凍保存されて持ち込まれる

輸入の対象となる5種類の病原体は、エボラウイルスの他、ラッサ熱、クリミア・コンゴ熱、マールブルク病、南米出血熱の各ウイルスだ。すべて冷凍して持ち込まれ、そのまま冷凍保存される。

これまで感染確認は、コンピューター上で人工的に合成したウイルスの遺伝子の一部を使って検査していたが、それだと確定しにくい面があり、最後は患者の血液を米国などの研究機関に送って検査して確定診断を行ってきた。自国で確定診断ができないと、時間がかかるだけでなく、日本の国際的な立場も弱くなる。

患者が治療で回復したときも、その患者に他人にうつす危険性が残っているかどうかの検査も、生きたウイルスを患者の血液に入れて反応を調べることができれば、正確にしかも速やかに判断ができる。

厚労省としてはどうしても生のウイルスが必要なのだ。