いまの一党独裁体制を賛美する中国人も多い
1989年6月4日の「天安門事件」から30年の節目を迎えた。事件後、中国は国民に対する監視の目を強化して言論の自由を奪い、共産党による一党独裁体制を貫いた。その体制の下で経済発展を遂げ、世界第2位の経済大国になった。
中国政府は国民に豊かさというアメをなめさせた。その結果、国民は監視というムチの痛みに鈍感になった。生活の水準の向上を喜び、いまの一党独裁体制を賛美する中国人も多い。
日本や欧米は経済的に豊かになれば、中国は一党独裁体制を改めるとの見通しを立てていた。だが、中国は経済発展を遂げても政治改革には乗り出さず、一党独裁体制を堅持した。
日米欧の見通しは間違っていたのだろうか。沙鴎一歩はその見通しが誤っていたのではなく、政治改革を経ていない中国の経済発展がニセモノであると考える。
香港の民主主義をめぐってデモを繰り返す学生たち
中国の市場経済は閉ざされたまま解放されていない。中国政府は鉄道、エネルギー、通信、軍事という国の重要な基幹産業を握り、巨額の利益を上げる。地方政府も毛細血管のように張り巡らされたネットワークで民間部門から富を吸い上げている。
中国国民が味わっているのは、真の豊かさではない。中国の経済発展には大きなほころびが生じ、中国経済はいつ何時、そのバブルがはじけてもおかしくない。
見せかけの経済発展の裏側では、役人の汚職が浸透し、国民の間に貧富の格差が広がっている。光化学スモッグで覆われた空やPM2.5(微小粒子状物質)に汚染された大気など環境破壊も深刻だ。農薬だらけの野菜や果物、抗生物質を大量に投与された養殖の魚介類が世界で危険視され、「チャイナ・フリー」が叫ばれる。
また、香港では6月9日、刑事事件の容疑者を香港から中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐって、大規模なデモが起きた。これは香港の自治を保障する「一国二制度」が骨抜きになることへの危機感のあらわれだ。
デモの中心となったのは学生などの若者たちで、2014年の「雨傘運動」を思わせる動きだった。だが雨傘運動は要求が何も実現されないまま封じ込まれた。学生たちが中心となる香港の民主化運動の今後に、世界中が注目している。