北海道・砂川にある小さな町の書店が、各方面から脚光を浴びている。
店主が応募者に1万円分の本を選び、発送するシンプルな「一万円選書」が幾多のメディアで紹介され、いまや全国からの応募者が3000人待ちという人気ぶりだ。
見知らぬ客一人ひとりにとっての「いい本」を、店主の岩田徹氏(67歳)は何を手掛かりに選ぶのか。
▼愛読書を聞かれた
名物書店の主が伝授「自分に合った一冊の見つけ方」
父が始めたこの書店は、昔は繁盛していましたが、商社を辞めて後を継いだ僕が、ローンを組んで店舗を改装・改築したのが1990年。直後にバブルが崩壊し、以来、向かい風にさらされ続けてきました。
全国で町の書店がどんどんつぶれていく。うちも新聞販売店といっしょに宅配を始めたり、ホームページを開いたりと色々試してみましたがうまくいかず、赤字続き。僕自身が何度も入院し手術したりと、にっちもさっちもいかなくなりました。
2006年、函館ラ・サール学園時代の先輩たちとの飲み会で「本が売れない」とぼやいたら、裁判所の判事だった先輩に「これで俺に合った本を選んで、送ってくれ」と1万円札を渡されたんです。先輩のことを想像しながら10冊くらい選んで、手紙を添えて送ったら、「面白かった」と喜んでくれて、「俺みたいなのが100人いたら、経営も安定するべ」と。それがきっかけでした。
読書で人から一目置かれるといっても、それは世界の名作全集のような、いわゆる立派な本を読むのとは違います。むしろ、ある1つの事柄に関してそのバックグラウンド、深いところをきちんと知っている、理解していることが大切だと思います。
例えば、サッカーならオシム(元日本代表監督)の著書。哲学的な語りで、サッカーを通じての平和を本気で考えている人です。オシムの本を数冊読み込んで、そこから欧州史を語れるまでになる、といったことが他の人に一目置かれるわけです。
そもそも、立派な本とあなたに必要な本とは違うことに気づいている人が、非常に少ないのです。マスの時代から個人の時代に移っている今、“皆が言っていること”を追う必要はありません。少数意見にこそ正解があるような時代なのですから。
未来の自分は、今から変えられる
「一万円選書」の本を選ぶ際は、「カルテ」と称してお客様にいくつかの個人情報、過去に読んだ本のベスト20といくつかの質問項目にご記入いただきます(図参照)。実は、お客様にはこれがかなりの難行。「1週間かかった」「10回以上書き直した」という方もいれば、「これまでの人生で苦しかったことを書き出してみてください」という質問で涙が出て、作業が進まなくなった方も。所定のA4用紙3枚を超えてすごい分量で書いてこられる方もいます。