既読の本のベスト20を挙げるということは、自分の過去を振り返るということ。自分が今までどんなことを考えてきたのか、何に興味があったのかを思い出すんです。多くの人は、目の前の仕事、自分の評価や成績しか視界に入っていません。自分と周囲を引いて眺めたり、人生という時間軸のうえでの現在位置を掴むのに、自分の読書歴を振り返ることが役に立つのではないでしょうか。

“一万円選書”でよみがえった町の書店●一見、何の変哲もない町の書店だが(写真上)、本棚には隠れた良書がズラリと並んでいる(同下)。壁一面に並んでいたコミックも一掃した。九州など遠方からも頻繁に客が来訪するという。

「上手に歳をとることが出来ると思いますか?」「10年後どんな大人になっていますか?」という質問もあります。60歳、70歳、80歳になったとき、あなたはどうなっていたいのか。田舎で畑仕事か、都会の一等地か等々を具体的にイメージして、そのために必要なことと必要でないことを考えてみれば、無駄なことはしなくなりますよね。時間をどう使っていくのか。一番忘れがちな「今」という時間がすごく貴重だということを思い出してほしい。そんな観点から、例えば「今」の尊さを描いた青春小説をお勧めしたりするんです。

いつも僕が大推薦する『逝きし世の面影』は、我々日本人のご先祖を外国人が描写した一冊ですが、僕らはご先祖のその後を、幾多の戦争を経験する厳しい運命を知っています。もし時間を遡れるとして、彼らに訴えかけることが何かあるかを考えると、涙が出そうになりますよ。

そこから一歩考えを進めると、過去に戻って今を変えられるとしたら、未来の自分は今から変えられる、ということ。10年後の自分はどうなっていたいのかを考えれば、今から10年計画を立ててそれを目指すことができます。そんな意味合いからこの2つの質問を置いています。

まず、嫌なことから書き出す理由とは

実は、僕が選んだ本を読む以前に、この「カルテ」に回答するプロセスを通じて自分をさらけ出すことで、「これはしたくない」「本当はこんなことをしたい」といった本人にとっての“答え”がほぼ出てきているのです。僕は「カルテ」を読み込むことで、その人にとっての“答え”を見出し、それを肯定してくれそうな本を選ぶわけです。

人は自分が欲しがっている文章と出会いたくて本を読むんです。「あ、太宰治も同じことを言っている!」とかね。それに出会うことで、前に向かっていけるんです。一人ひとりに寄り添って、「僕は味方だよ」「大変だったね」って言ってあげるための本を選ぶのは大変な作業ですが、やり甲斐がありますね。