※本稿は、岩田光央『声優道』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
声優は「職人としての資質」が8割
なぜ僕が声優を「職人」と表現しているかと言えば、求められる仕事の多くの部分はクライアントがいて、その要望に応えることが仕事だからです。さらに言えば声優という職業は、職人としての資質が8割、芸術的な資質が2割程度の割合で必要だと考えています。
どんな役で、どんなシーンであなたの声が、演技が求められているのか。その組み合わせは確かに無限ではありますが、あなたが選ばれた以上、求められる理想の声と演技が存在しているのは事実です。
そしてその要望は、その場の付け焼き刃で出したもので応えられるのではなく、あなたの過去の、その積み重ねの果てに初めて到達できるもの。つまり日々の努力で磨かれた技術があって、初めて演じることができるようになるはずです。
そうした職人とも言える技術が土台にあって、その上で性格や個性、緻密さを組み合わせて、役の魅力を高めるのがベテランの技術であり、魅力であると言えるでしょう。
どんなベテランだろうと現場に行く前には、台本を片手にコツコツと予習をし、口パクを合わせるという作業は必須で、これらの準備はやはり職人仕事であり、華やかさとはある意味で無縁なのです。
作品に没頭できるなら「タレント」はいい演技をしている
職人としての声優の反対側に存在しているとイメージされやすいのが、大作アニメ映画や洋画などでよくキャスティングされる芸人や俳優、タレントでしょうか。
そうしたキャスティングを考えるのは、あくまで監督や制作会社側であって、僕の立場としては何も言えませんが、声優としての良し悪しの判断基準を述べるのであれば、それはあくまで作品を見ていて違和感を覚えるかどうか、ということだと思います。
違和感なく作品に没頭できたのならば、そのタレントはいい演技をしているということであり、少しでも違和感を覚えたのなら、残念ながら声優としてのニーズを満たしていないということになります。
特に俳優は普段声だけに頼らず、顔の表情や身振り手振りといった身体を使って演技をしていますから、声優としての演技をする場合、作品中での役とうまくシンクロできていないように感じられる場合が多い。
しかし彼ら俳優やタレントは声だけで演じる技術がなくて当然ですし、そもそも声優としての立場を求められてはいないとも言えます。