歌って踊る「アイドル声優」に憧れる人が増えた。この風潮について芸歴30年の現役声優・岩田光央氏は「現在活躍している人たちは、声優としての実力を認められた上でステージに立っている。声優の技術を高めなければ、誰の記憶にも残らない人になる」と警鐘を鳴らす――。

※本稿は、岩田光央『声優道』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ipopba)

一昔前には考えられなかった「紅白」への声優出場

今、声優を目指している若い女性にとって憧れている存在とは、単純な「声優」というより、「アイドル声優」なのかもしれません。

近年だと水樹奈々さんや、アニメ「ラブライブ!」出演者の声優ユニット「μ's(ミューズ)」の活躍により、声優が歌って踊るアイドル活動をすることが当然として見られるようになりました。「紅白歌合戦」に声優が出場するという状況は、一昔前からはとても考えられませんでした。

そのため、「バリバリのアイドルになれる自信はないけれど、声は悪くないし、あくまで声優として、歌って踊る存在にならなれるかも」と考える人が沢山いると思います。専門学校などでも、そうしたアイドル的なニュアンスを押し出して、生徒集めをしているところが少なからず見られます。

あくまで個人的に言えば、そうした憧れを持つことは大歓迎です。僕自身、声優という立場ながら、両国国技館や横浜アリーナのステージに立って、歌やパフォーマンスを披露してきました。今振り返ってもとても素晴らしい経験だったと感じています。

歌や踊りのスキルが必要になった背景

そして、それがいいことか悪いことかは置いといて、特に若手声優にとって、歌や踊りはできるにこしたことはないスキルとなりつつあります。というのも、作品の背後にいる企業の戦略が、声優へ大きく作用するようになったからです。

かつてのアニメ業界は、アニメの地上波放送が終了すれば、作品を収めたビデオやDVDを販売するなどして、収入を得ていました。それから、キャストによる歌やオリジナルドラマを収録したレコードやCDも販売されるようになりました。つまりコンテンツをソフト化することで新たな収益を生む、という流れがスタンダードでした。実際、それなりにソフトは売れ、それでさまざまな関連企業が潤う構造になっていたのです。

しかし現在、ソフトが売れなくなりました。

たとえば僕が出演した「ここはグリーン・ウッド」というアニメをベースとしたラジオドラマCDは、1990年代の当時、約3万枚売れています。しかし同様のソフトが、現在なら1万枚売れればかなりのヒット、3000枚で御の字、という時代になりつつあります。これは、作品がどうというより、消費に対しての考え方自体が大きく変化したことが影響しているのではないでしょうか。