「モノ」ではなく「体験」を売る

ではどうやって利益を上げているかと言えば、単純にモノを売るのではなく、体験を売ることへと大きくシフトしています。つまりは出演者と同じ場を共有することで満足感を得られる、トークイベントやコンサートなどに軸足を置くようになりました。

今やそれなしでは利益も最小化してしまうため、アニメやゲームなどの多くにおいて、コンテンツで完結することなく、最初からイベントやライブ活動を意図した作品づくりが盛んになっています。だからこそ出演者である声優も、必然的に歌唱力、ダンスなどのパフォーマンス、さらにはルックスまで求められるようになったのです。ひいては声優自身が、作詞や作曲まで手がけることを求められるような時代になりました。

そのため僕が講師を務める養成所にも、そうした「アイドル声優」に憧れる生徒が多く見受けられるのは仕方ないことですし、それ自体は否定しません。

ただし、そこで忘れてはならないのが「アイドル」と「アイドル声優」との違いです。その最大の差異は「声優」の位置づけが「アイドル」の上なのか、そうではないか、ということ。その違いを考えてみましょう。

水樹奈々さんの軸足はあくまでも「声優」

たとえば、先ほど名前を挙げた水樹奈々さん。

彼女は、あるときはアイドルとして、またあるときは普通に歌手として活躍をしています。数万人入るような会場でライブを行っては、沢山のファンを魅了しています。さらに彼女は前提として声優としてのスキルも非常に高く、現在もナレーターなどを務めるレギュラー番組を持っています。つまり彼女の軸足はあくまで声優であり、声優から派生したアイドル活動をしている、ということなのでしょう。

しかし、声優の卵たちを見ていると、華やかな活動のほうが人の目に強く焼きつけられやすいためか、一体何を目指しているのかあまりにぼんやりとした認識のままで、声優を志願している人が増えた印象を受けています。

そもそもアイドル声優として認められるにはどうすればいいのか? それには、まずは声優としてのスキルを磨き、メインの役を勝ちとることが大前提となります。その上で、アイドルとしてのさまざまなスキルが要求される。

アイドル面を重視するなら、それなりのルックスは不可欠でしょう。その上で、歌やダンスも人並み以上にこなし、できるだけSNSのフォロワー数も稼ぎ、多くのファンが後ろに控えていることをアピールしなければなりません。