事務所に所属しているけど「開店休業」状態な声優がいる

先述のように、「旬」を迎えて仕事が集中する時期はスケジュールの管理が難しかった声優も、ひとたびそれが過ぎれば同じような活躍は困難になります。特にアイドル的な人気に頼りすぎた場合、「アイドル」の部分が何かの拍子で欠けると、途端に売り方が難しくなり、マネージメントの方向性を見失いかねないことが多いようです。

そのため「旬」を避けては通れない若手の女性声優だと、事務所に所属し続けてはいても、事実上「開店休業」状態となる人があまりに多い。人気作品のメインキャラクターを演じ、一時代を築いた人だろうと決して例外でなく、ある程度の年齢になった頃、事務所を移籍する人もいれば、そのまま辞めてしまう人も数え切れません。そしていよいよ近年、男性声優に対してもこうしたアイドル的売り方の風潮が強く見られるようになりました。

詳しくは著書『声優道』に記しましたが、「とにかく大量に安く」という風潮が一方で生まれてきてもいて、入れ替えのスパンはさらに短くなっているように感じています。特に「旬」や「華」の要素が強く求められるようになった若手の場合、男性も女性も、これからは同じ状況にある可能性が高いと考えておいたほうがいいでしょう。

死んだとき「もうあの声が聞けなくなるな」と悲しんでもらえるか

岩田光央『声優道‐死ぬまで「声」で食う極意』(中央公論新社)

ただし「旬」や「華」に頼り、一時の人気に甘んじ、軸足を声優以外のところに置いてしまえば、残念ながら長く親しまれる声優の地位には決して就けず、いずれ苦しむことになるはずです。そのことは人気作に恵まれながら、その後ドン底を味わうことになった自分だからこそ、断言できます。

どの生き方がベストだ、ということは誰にも言えません。しぶとく長く、声優でい続けることが正しいわけではなく、一瞬だけ輝いて潔く散るのも、現在の声優業界を考えればさもありなん、と感じます。

しかし、あくまで自分は誰かの記憶に残り続ける声になりたい。自分が死んだとき「もうあの声が聞けなくなるな」と誰かに悲しんでもらえるような、そんな心に残る存在になりたい。

そしてファンにそう思われてこそ、真の「声優」なのではないかといつも考えているのです。

岩田光央(いわた・みつお)
声優
1967年、埼玉県生まれ。出演作に「AKIRA(金田役)」「頭文字D(武内樹役)」「トリコ(サニー役)」「ドラゴンボール超(シャンパ役)」、「斉木楠雄のΨ難(斉木國春役)」など多数。子役から芸能界入りした、芸歴30年以上のベテラン。2013年、第7回声優アワード「パーソナリティ賞」受賞。ラジオ大阪「岩田光央・鈴村健一スウィートイグニッション」などにレギュラー出演中。声優学校などで講師を務める。通称『兄貴』と呼ばれ、後輩やファンに慕われている。19年6月より青二プロダクション所属。
(写真=iStock.com)
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