ただ、ライザップの場合は人でした。社長の瀬戸健さんは礼儀正しく、爽やかな人柄。しかもまだ40歳なのに、あそこまで会社を大きくした。そこに惹かれました。経営トップの人柄を理由に引き受けたのは、僕としては初めてのケースです。

ともあれ、人からものを頼まれたときは、まず引き受けることを前提にし、そこで自分の力をどう発揮すれば、会社と相手の役に立てるかを考えるのが僕の流儀です。

自分と会うメリットは何かを、いつも考える

先に売り込みには応じないと言いましたが、僕は若いころは、ものを売るために、相手先の会社の偉い人に会ってもらおうと必死でした。大学院を出て、商社(伊藤忠商事)に勤めていたころです。

言葉遣いや目上の人を敬うなど、マナーに気をつけるのは当然ですが、それにもまして大切にしていたのは、商品よりも自分を売り込むことです。

偉い人に会うときは、手土産を持っていきますが、それは物ではありません。一番の手土産は情報です。相手先の会社のことはもちろん、その業界の動静から社長の趣味や家族のことまで、とにかく事前にいろいろと勉強して訪ねました。

商品の話など、しても聞いてもらえませんからね。共通の話題が持てて「こいつはおもしろい」と思われれば「また来なさい」と言ってもらえます。「○○に関心があるので教えてください」とお願いするのもいいですね。長く、ひとつの業界で経験を積んだ方ほど、人にものを教えるのが好きですから。

「人は買いたい物を買うんじゃない、買いたい人から買うんだ」と、今でも僕はよく言います。相手にとって自分と会うメリットは何か、どうすれば相手を惹きつけることができるかを、いつも考えていましたね。

若いうちは手間暇をおしまず、いろいろなところへ出向き、たくさんの人と会うことが大切です。それで得た知識が、後にどれほど役に立つかは、計り知れないものがあります。

引き受けたら、約束は必ず守る

ものを頼むにも、頼まれるにも、最も大事なのは「約束を必ず守る」こと。当たり前ですが、約束を守れない人は信用されません。

これも商社マン時代の話ですが、僕は「御社で必要なものは全部、私を通して買ってほしい。何でも買ってきます」と言って顧客をつくりました。そして、必ず約束を守りました。上司には「こんなの、うちで扱えるか!」とよく叱られましたけれども、あの経験があって、今の自分があると思っています。