「到底、納得できない乱暴な判断である」

この連載では新聞各紙の社説を読み比べている。相手が韓国となると、真っ先に“牙”をむくのが、産経新聞の社説(主張)だ。その産経社説(4月13日付)は冒頭から「到底、納得できない乱暴な判断である」と書く。見出しも「韓国の禁輸で敗訴 何のためのWTOなのか」とWTOに手厳しい。

「福島第1原発事故を理由とする韓国の禁輸は必要以上に貿易制限的で、恣意的または不当な差別だとしたパネルの判断に瑕疵があると断じた。さりとて、日本が主張した科学的な安全性が覆ったわけではない。韓国の禁輸がWTO協定に整合的と認定したわけでもなく、釈然としない」

「パネル」とはWTOの第1審の紛争処理小委員会のことであるが、産経社説は1審の判断を取り消した2審裁決を「釈然としない」と批判する。沙鴎一歩の見解と同じである。

さらに産経社説は「詰まるところ、ルール違反かどうかを明確にしないまま、ただ訴えを退けただけといえないか。これでは一体、何のためのWTOかと疑念を抱かざるを得ない」と解説しながらWTOを批判する。実に分かりやすい社説である。

水産物の安全性が否定されたわけではない

産経社説はこうも主張する。

「日本は科学的根拠に基づいて措置の撤廃を求め続けるべきだ。韓国に求める2国間協議で断固たる姿勢を貫いてもらいたい」
「今回の判断で、水産物の安全性が否定されたわけではない。これをきっかけに日本の水産物の悪評が国内外で広がるとしたら、それは誤りである」

「科学的根拠」「水産物の安全性」。いずれもその通りである。今後の韓国との2国間協議こそ、日本外交の腕の見せどころだ。

それでも懸念されるのが風評被害である。産経社説は「誤りである」と一蹴するが、問題はそんなに単純ではない。どうしたら国内で無用な風評被害が出ないかを、新聞社の社説として提言すべきだ。その提言に欠けることを考えると、産経社説には満点はあげられない。

産経社説は「日本政府の対応も十分だったのか。パネルでの勝訴に安堵し、上級委でも勝てると楽観的にみていたのなら猛省すべきだ」と主張する。ここは沙鴎一歩の意見と同じだ。

WTO改革の必要性を再認識させるもの

次にWTOの機能不全の問題についても産経社説はこう指摘している。

「かねて、トランプ米政権がWTOによる紛争処理の実効性に強い疑問を呈してきた。今回の判断はWTO改革の必要性を再認識させるものでもある。教訓を生かして改革につなげる。日本はそのための努力も怠ってはならない」

トランプ大統領は貿易ルールを守らない、中国に対するWTOの対応を批判し、加盟国として上級委員会メンバーの任命に反対してきた。その結果が上級委員会メンバーの空席なのである。

産経社説が指摘するように「WTO改革」が必要だ。