「勝訴できる」と楽観していたのではないか

韓国が原発事故後から福島など8県の水産物の輸入を禁止している問題で、紛争を処理する世界貿易機関(WTO)が4月11日、上級委員会(第2審)で小委員会(第1審)判断を「取り消す」裁決を下した、と発表した。第1審は韓国に是正を求めていた。日本の逆転敗訴である。

世界貿易機関(WTO)最終審で日本が逆転敗訴し、閣議後に記者会見する吉川貴盛農林水産相=2019年4月12日、東京・霞が関の同省(写真=時事通信フォト)

予想外の結果で驚かされた。WTOの判断はおかしいと思う。だが、同時に日本の置かれている立場はそんなに甘くはないとも感じた。

日本との関係が悪化しているなか、韓国は水面下で必死に動いたのだろう。その間、安倍政権は何をやっていたのか。勝訴できると楽観していたのではないか。安倍政権はこれまでの対応を深く反省し、韓国に敗れた原因を慎重に探って今後に生かしてほしい。

東日本大地震から8年という歳月が流れたいまも、韓国など海外の消費者は、日本産の食品が原発事故による放射線で汚染されていると誤解している。中国や台湾、アメリカなど23の国や地域では、日本産食品に対して輸入規制が続いている。安倍政権はWTOの裁決で勝訴し、各国に対して規制緩和を強く求める方針だったが、その作戦はむなしく散ってしまった。

想定外の結果に外務省は急遽、今後の対応を検討し始めた。自国の利益を第一に考えて相手国と交渉し、その交渉姿勢の正当性を国際社会にアピールし続けるという外交の基本を再確認すべきである。

1審は韓国に是正求める日本勝訴だった

2013年9月からの韓国による日本の水産物の輸入全面禁止に対し、日本は「韓国の規制は科学的でなく、自由貿易を阻害する」として2015年5月にWTOに提訴した。なかでも韓国で人気のあるスケトウダラやマサバなど28品目の魚類の禁輸措置解除を強く求めた。

WTOの審判は2審制だ。昨年2月の1審(小委員会)の裁決は、日本の勝訴だった。WTOは「輸入禁止は必要以上に貿易を制限している」として韓国側に是正を求めた。

ところが、昨年4月に韓国がこの1審の判断を不服として上訴した。その裁決が今年4月11日の2審の上級委員会による1審判断の破棄だった。